【22.08.28】ホテルマネジメント雑学ノート(Vol.109)人材不足は、新規採用では解決できない

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ホテルの人材不足の深刻さが増しています。人材不足の危機を私は何度も訴えていますが、深刻さが増しているにもかかわらず、本質的な問題と解決に気付いている人は少ないのではないかという危機意識がるため、敢えてまた書きたいと思います。




「希望退職者は、ほぼ全員が他産業に転職した」

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2022年の観光白書によると、2019年12月に比べ、2021年12月時点で、宿泊業界の雇用者数はマイナス15パーセントです。感染禍によってホテルや旅館が自主退職者を募っている理由、倒産軒数の増加という理由がありそうです。20年前くらいでしたら、「ホテルマンは、ホテルを辞めて、ほかのホテルに転職する」、つまり、業界内での転職がほとんどでしたが、コロナ禍においては、ほとんどの退職者が他産業にいっているようです。都内電鉄系老舗ホテルを最近辞めた友人からの情報によると、同ホテルの「希望退職者は、ほぼ全員が他産業に転職した」そうです。
同じく観光白書によると、売上が激減したからでしょうが、宿泊業の労働生産性(付加価値額÷従業員数)は激減しています。全産業平均が688万円なのに対し、宿泊業は242万円です。収入源も、業界から離れる理由になっています。



宿泊業界の人材不足が益々深刻になる3つの理由

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また、今後も宿泊業界の人材不足は益々深刻になる理由が3つあるのです。
ひとつは、ホテルの建設ラッシュです。顕著なのが、ラグジュアリーホテルの新設が後を絶ちません。二つ目は、ホテル志望学生が減っているということです。ホテル専門学校は軒並み入学者数を減らしています。両親が宿泊業を勧めないということ、留学生が日本に入ってこれないという理由があります。業界から人材は流出するが、入って来る数は減っているというのが現状です。三つ目の理由は、宿泊業だけの問題ではありませんが、日本の生産人口が激減しているということです。2010年に8100万人だった生産人口は、2060年には、4800万人に減少。労働者一人が、非労働者一人を養う時代になるのです。



人が足りないというホテルほど、離職者が多い

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つまり、ヒトを増やそうとしても、そう簡単には増やせない時代、つまり「採用が極めて困難」な時代なのです。にもかかわらず、ホテルの皆様の多くは、「人材不足を、新規採用で解決しよう」とばかり考えていらっしゃる。数日前にお邪魔した都内の外資系ホテルでは「2023年4月入社の新卒者が足りないので追加募集する」とおっしゃっていましたが、ホテル専門学校はどこも既に売り切れです。大卒者しかりです。

また、長年、宿泊業界の就職支援をしている立場から感じることは、「人が足りないというホテルの多くは、離職者が多い」ということ(ある意味当たり前ですが)です。私は長年、ホテル志望学生の就職サポートをしていますし、ホテル専門学校や大学の観光学部でも就職指導をしていますが、数年で辞めてしまう人の、なんと多いことか・・・。そして、このコロナ禍でそれは加速しています。この春の新卒者の過半数がすでに辞めてしまったというホテルの多いと思います。




輸血よりも止血が先

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もういい加減、「人材不足は、新規採用では解決できない」ということに気付きませんか。人材不足の本質的な原因は「劣悪な職場環境」にあるのです。サービス残業ばかり、人間関係の悪さやいじめの存在、薄給などなど。ここを解決することが先です。輸血よりも止血をしましょう。現状は、「輸血してもダラダラ血が体外に流れていくばかりで、もう輸血する血がほとんど残っていない」のですから。止血のために、とにかく既存社員を大事にしてください。既存社員のESが向上することが、離職率を下げ、新規採用にも効いてくるのですから。




「人が足りない」という前に、業務プロセスの見直しを

もう一つ、解決方法の提案があります。業務プロセスの見直しです。

健全な職場とは、上の図にあるように、創造すべき価値の総量(左辺)と、それを生み出すマンパワーの総量(右辺)がイコールである状態です。そして、右辺は、「人数」×「労働時間」に分けられます。「人数」は、「既存社員」と「新規採用」に分解できます。上記で申し上げた通り、@の「新規採用」は、ものすごく難しい時代になっていますので、Aの「既存社員」を大事にしましょう、離職者を減らすためにESを高める努力をしましょうというのが上記の私の意見です。

それでも、「人数」を増やすことは、とても難しい。単価を上げたり、利益額が高められるホテルなら、人件費予算を増やしていけるので可能ですが、多くのホテルでは、インバウンドが戻るまでは、なかなか売上利益は上がらないでしょう。でしたら、残りの「時間」という関数をいじるしかないのです。

つまり、業務プロセスを見直しして、労働時間を減らすことです。業務を棚卸して、省いていくことです。または、ヒトとテクノロジーの役割分担をして、ITやロボットができることはそちらに任せていくという、いま流行りの「ホテルDX」に取り組むことです。


日本のホテルは安すぎる

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先日、カナダを旅した際、素泊まりで約280カナダドル(約3万円)のホテルに泊まりました。驚いたことに、8時以降はフロントスタッフが不在ゆえ、ゲストはメールでもらっている暗証番号で鍵を受け取り、自分で入室するというオペレーションでした。ほかのホテル(同じく3万円ほどの。カナダもアメリカも200ドル以下のホテルは本当に貧弱なホテルばかりです)も、同様で、ワンオペのフロントだったり、朝食サービスすらないホテルでした。そう考えると、日本のホテルは、相対的に、「頑張り過ぎている」もしくは、過当競争状態になっていると言わざるを得ません。

個人的には、スタッフとのコミュニケーションがホテルの楽しみのひとつだと思っていますので、日本のホテルの多くが、シンプルなオペレーションのホテルになってしまうのは残念でなりませんが、これまで述べてきた環境変化に対応するためには、業務を見直し、「省く」もしくは「テクノロジーに委ねる」をしていく必要がありそうです。

追伸 たった3人で40数室のホテルを回し、フロント対応は9〜18時まで、それ以降はセルフチェックイン、電話対応をなしなど、シンプルなオペレーションであっても満足度抜群、ファン急増のホテルがあります。「リンナス金沢」です。ぜひ、参考にしてください。

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