【22.1.1】ホテルマネジメント雑学ノート(Vol.104)「ポストコロナのホテル業界、どう構想する!? 〜2022年の新年のご挨拶に代えて」



新年あけましておめでとうございます。

年末年始の数日間、宿屋大学は講座開催や研修・出張が少なく、新年一年間の準備と構想を練る時間になります。ダーウィンの進化論「環境変化に適応していく者だけが生き残れる」は、ビジネス界では真理でしょう。この年末年始の時間を使って、ポストコロナの社会や宿泊業界の変化を見据えつつ、「業界や宿屋大学はどうあるべきか」、常日頃つらつらと考えていることを整理したいと思います。





コロナ前の昭和時代からコロナ後の令和時代に



コロナによって、世の中は大きく変化する。
多くの識者がこう述べています。生活者である我々も実感していることは多いと思います。まずは、どう変わるのか、これを「日本の社会」「働き方」「宿泊産業」の3つで整理してみました。「コロナ前の昭和を引きずった時代」と「コロナ後の令和的新しい時代」への変化。赤字で書いたものはより注目すべきであると私が感じている変化です。


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対比させてみると、こんなにも多くの変化がありそうだと分かりました。
主要な変化を4つ挙げてみるとこうなります。

@標準化から多様化
Aホテルの競争激化
B急速なデジタル化(デジタルを使わないは、死を意味する時代)
Cホテル業界におけるニュータイプの登場

本ブログでは、この4つの解説を中心にお伝えしようと思います。

※その前に、誤解を招かないためにお伝えしますと、私は「昭和はダメだ」と主張しているわけではありません。私も昭和42年生まれであり、どっぷり昭和の時代に小中高生活を送った生粋の昭和人間です。昭和にも、普遍的に素晴らしいものはたくさんあると思っています。ただし、時代は変化しており、昭和を引きずって、そのままやっていると変化・進化し続けている時代から取り残されて、ビジネスが成り立たなくなるのではないかという危機感を持っているということです。





@標準化から多様化



昭和時代は、「みんなと一緒」が求められました。違うことをやったり、言ったりすると煙たがられました。私は中学では、学ランを着て、坊主刈りで過ごしました。国民の大半が大都市での生活や一流大企業への就職に憧れました。メディアといえばテレビが全盛で、みなが同じ番組を見て、翌日その番組の話題で盛り上がりました。

日本は、製造業が稼ぎ頭の時代でしたから、工場で「言われたことをその通りにこなす」仕事のやり方が求められました。国民がみな同じものを欲したので、同じものの量産というビジネスが最も効率的に儲ける方法でした。みんなが平日に働き、週末やお盆や正月に同時に休むので、リゾートホテルや旅館の利用は週末や連休に集中し、平日は宿泊客が非常に少ないという状況でした。

令和時代がどうなるかというと、価値観や生き方が多様化します。「みんなと同じ」は価値がなく、個性があるほど価値が生まれる時代です。社会やコミュニティに無理して同調していた人たちも、「自分らしさ」を求め、ダイバーシティが叫ばれるようになりました。

物質的な豊かさが満たされている時代は、同質なものがいくつもあれば、価格競争になり、モノの値段は安くなり、儲かりづらくなります。労働者も一緒です。人と同じことしかできない人の給料はどんどん下がっていきます。ですので、<同じ>よりも<違い>が価値になり、個性あるモノやヒトが選ばれるのです。

そんな多様化の時代です。ホテルも選ばれるために、やはり<違い>や<個性的な魅力>をつくっていく必要がありそうです。


Aホテルの競争激化



コロナ禍に入ってまる2年が過ぎましたが、いまだにホテルの開業ラッシュは続いています。コロナ前に着工したホテルは建設を途中で中断できず、ポストコロナの需要回復を見込んで開業しています。大手宿泊特化型ホテルチェーンも軒数を増やし、外資系ホテルブランドを冠したホテルの増加も加速傾向にあります。「HOTERES」誌(2021年12月3日号)によると、今年下半期半年間に開業したホテルは135軒、今後開業予定のホテルは445軒もあるそうです。それらの傾向を見ると、チェーン系の宴会場を持たない宿泊主体型ホテルが大半を占めています。つまり、「宿泊インフラとしてのホテル」が大半です。こうしたグレード、タイプのホテルは、スケールメリットを効かせることができるために、大手が有利となります。

では、大手ではなく、資本力も弱いホテルはどうすべきでしょうか・・・。これこそ、標準化から個性化の変化に対応すべき部分でしょう。単なる寝床として機能プラス「何かしらの価値」を付加するホテルの在り方です。

時代を鋭く分析し、価値ある示唆を社会やビジネス界に提言してくれている山口周氏は、モノの価値を<役に立つ>と<意味がある>という二軸のマトリックスで解説しています。そして、「<役に立つ>という在り方の市場で勝者になるのはごく少数であり、それ以外の多くは敗北する」と語っています。

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この論説は、山口氏の『ニュータイプの時代』という書で詳述されていますが、それを少し紹介します。自動車業界の例でいうと、「快適に移動する」という役に立つ乗り物であるカローラ(今でいうとヴィッツでしょうか)は、表の左上に位置します。一方、2シーターで荷物もほとんど積めず、ただただ爆音をとどろかせて猛スピードで走るフェラーリのような車種は右下、つまり「役に立たないけれど意味がある」という枠に位置します。そして、フェラーリは数千万円を払ってでも買いたいという人が後を絶ちません。つまり、欲している人にとっては「唯一無二の意味」があるのです。

このマトリックスは、ホテル業界に当てはめてもしっくりきます。左上には、大手宿泊特化型ホテルチェーンに位置します(カローラしかり、宿泊特化型ホテルしかり、日本人は、この機能性を重視した「役に立つ」製品を、コストを抑えて量産することに長けていると感じます)。 参考資料:【15.09.15】ホテルマネジメント雑学ノート(Vol.92)「日本発ビジネスホテルの競争優位性」

山口氏の論で言うと、この宿泊特化型ホテルの市場で勝つのはごく少数であり、それ以外の多くは敗北することになりそうです。では、フェラーリに当たる宿泊施設は、どんなものが当てはまるのでしょうか。私は京都の「俵屋旅館」のような存在が、ここに当たると考えています。俵屋は、日本文化の縮図です。建物や設え、節句の表現、料理やおもてなしなど、すべてにおいて、日本文化や日本の世界観を表現しています。宿泊客はそこに大きな意味を見出しているからこそ、一泊二食に10万円前後の金額を支払うのです。


私がホテル業界に提案したいのは、「意味がある市場で、ブルーオーシャンを見つけよう」ということです。「役に立つ市場(つまり標準化の市場)」では、大手数社しか生き残れないでしょう。「意味がある市場(つまり個性的な魅力で選ばれる市場)」で、独自の魅力を創造して、それに共感する人たちに顧客になってもらう競争戦略を考えるというのが、多様化の時代、ポストコロナの令和時代の在り方なのだと思っています。どんな人たち(ペルソナ)に、どんなコンセプト(価値)を提供するのかを明確にしていく戦略です。意味や個性的な魅力・価値を創っていく方向性には、ローカル文化、地産地消、働くヒトやコミュニティ、アクティビティ、世界観、哲学などが挙げられます。

これは、なにもホテル企業の経営のためだけではなく、日本社会の成熟化の意味でも大いに価値のある在り方です。画一的で、単なる寝床としてホテルばかりが街にあふれる社会よりも、個性的なホテルが街にたくさんあって、旅行者は自分の好みに合わせてホテルを選ぶことができる社会の方が豊かに決まっていますから。


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B急速なデジタル化(デジタルを使わないは、死を意味する時代)



10年かかるだろうと予測されていた日本のデジタル化が、コロナ禍になって、たった2年で進んだと言われています。時代は、オンラインです。我々の生活や仕事は、ネット上で展開されている時間がどんどん長くなっています。どこででも仕事ができるし生活できる。ファックスや郵送の請求書を扱っていると、それだけで「遅れた会社」と思われても仕方ありません。現金払いしか受け付けない店もしかりです。時代は、「Digital or Die(デジタル化しないと、死ぬだけだ)」なのです。

ホテルや旅館は、どこに行っても「人が足りない」と言われます。コロナで人を減らしてしまったので需要の急拡大に追いついていない。でも、問題解決の答えは「人を増やすこと」だけじゃないはずです。「増員」以外の解決策を考える努力が必要なのだと感じます。

下記の計算式をご覧ください。


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理想は、この状態です。生産人口減少日本において「スタッフ数」を増やすことが至難である状況を鑑みると、「能力」か「モチベーション」を高めることも必要です。ただ、そうはいっても、この二つも一朝一夕には上がらない。日々の人材開発と組織開発を意識的にやっていく必要があり時間がかかります。

だったら、左辺の「仕事量」を減らすことです。業務の効率化を考える。仕事を省く。人でなくてもできる業務をロボットやIT技術にやってもらうことで、人のパフォーマンスを高めることを考えるべき。製造業や外食業は、すでにどんどんこれを進めています。「いやいや、ホテルは、ここを省いちゃおしまいだ」なんて感じている人は、思考停止状態に陥っていると思います。人でなくてもできる業務をロボットやIT技術にやってもらうことで、人のパフォーマンスを高め、ホスピタリティを発揮できる時間と余裕をつくることでアウトプットの量と質は上げられるのですから。

もうひとつ、昭和からの脱却で大事なポイントは、「行動量より思考量」ということです。昭和のホテルでは、よく四大卒の新入社員が現場の効率化などを提案すると「そんなことを考えている暇があったら体を動かせ」なんて言われていましたが、令和の時代は逆であるべきでしょう。思考することでアウトプットの質と量を高めていくスタンスが必要なのです。


Cホテル業界におけるニュータイプの登場

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最後に、コロナに関係のない変化として「業界に現れたニュータイプのホテル業界人」を挙げたいと思います。私がこの一年で知り合ったホテル経営者、ホテルパーソンには、明らかに今までいなかったタイプの人材がいるのです。拙著新刊で紹介した5人はごく一部です。

私がこれまで出会ってお付き合いしてきたホテル業界人は、ほとんどが「おもてなしをしたくてホテルパーソンになった」方々です。しかし、今年出会ったニュータイプは、豊かさやライフスタイルの表現ができるといった「ホテル事業」の面白さに惹かれてホテルをプロデュースしたり、経営・運営したりしている人たちです。デジタルネイティブな彼らは、一様にクレバーで純粋で一生懸命でワーカホリックです。

そして、注目すべきは、みなさん仕事を楽しんでいるということです。ホテルを創る仕事や、接客を楽しんでいるということです。大晦日の朝に、NHKで大谷翔平のドキュメンタリー番組をやっていましたが、その中で、彼は「一生懸命、楽しむ」と語っています。野球を楽しみたいから頑張って上手くなろうとする。野球は仕事というより楽しみたいからやっている。結果、彼は億万長者です。令和時代はこういうことなのだと思います。昭和の時代は、努力と根性で頑張ることで成長・成果を上げてきましたが、辛いだけの職場からはもうなにも生まれないでしょう。経営者やマネジャーがホテルの仕事を楽しむ。人生を楽しむ。それを見てスタッフが仕事を楽しいものとして行なう。そんな楽しそうなスタッフが創る現場をお客さんも楽しく感じる。そんなお客さんが顧客になって企業に利益をもたらしてくれる。そんな循環です。

ホテルは輸血よりも止血を真剣に考えてほしい。採用よりも定着という課題に優先的に取り組んでいただきたいということも、私は切に願います。ニュータイプがやっているホテルは、スタッフも楽しく働いています。なんのためにやっているのか、自分たちが目指しているのはなんなのかというゴール・パーパスやベクトルが共有されている。そんな職場の離職率は極めて低いのです。

また、ニュータイプのホテル業界人を見ていて感じるのは、「守破離は古いのかもしれない」ということです。先人の教えやノウハウという型をまずはマスターしろというのが日本古来の教訓ですが、その苦労や時間をかけるよりも、〈好き〉を好きなだけ自由にやらせた方が成長するし、アウトプットは面白いものになるかもしれません。昭和と今が違うのは、テキスト情報や動画情報といったものに簡単にアクセスできるということです。師匠はインターネット上にゴロゴロ転がっている時代。最低限の基本はそこから入手でき、それを自分流にアレンジしていける器用さをデジタルネイティブである彼らは持ち合わせています。辛いことを無理して続けるよりも、楽しみながら創意工夫で続ける方がずっと成長は進むのでしょう。

私は、こうしたニュータイプのホテルビジネスパーソンが、宿泊業界の新しい潮流を創ってくれると期待しています。彼らを応援することで、ホテル業界の改善を促進させたいと思っています。


増殖し続けるホテル業界において、ホテルを育てるプロを増やしたい


ホテルは、建物とサービスオペレーションという二つで構成されます。そこには二種類のプロが必要です。

「創るプロ」と「育てるプロ」。

ここ数年間、観光促進とインバウンド客の増大を受けて日本各地に新しいホテルが誕生しています。コロナ禍のいまでも。まるで雨後の筍の様に・・・。ところが、そうしてできたホテルを「育てるプロ」は、残念ながら増えていません。どんなに素晴らしい建築とインテリアを装ったホテルも、そこに魂と哲学を注入し、サービススタッフをモチベートしてゲストをもてなし、そこでしかできない顧客体験価値を提供することができなければ、ホテルは単なるハコに終わります。時間と共に古び、価値は減少していきます。

オペレーショナル・アセットと呼ばれるホテル。そのホテルの価値をサービスオペレーションによって高め、収益を恒久的に上げるアセットに育てられるのは、プロのホテリエなのです。日本は、ホテルというハコの数や増え方に対してのホテリエ(プロフェッショナルホテルマネジャー)という“ヒト” の数が明らかに少ない。ホテルで生み出される価値を増やし、アセットの価値を高められるプロフェッショナルホテルマネジャーが今の何倍も必要です。

そんなプロを増やしたい。宿屋大学が抱く想いとミッションはそこにあります。第11回「プロフェッショナルホテルマネジャー養成講座(通称PHM講座)」は間もなく募集を開始します。

そして、もうひとつ、2022年は、「HOTEL OWNERS CLUB(HOC)」の取り組みにも注力します。「本気のホテル経営者のための、真剣な経営道場」として活動し、日本のホテル・旅館経営者の応援を強化できたらと思っています。

PHMとHOC、この二つを軸に、新しい時代における在り方、アウトプットの仕方を理解したホテリエを支援して、ポストコロナの令和の時代、日本中のホテル・旅館を楽しい職場にし、そこで働く人たちが自分の仕事の誇りをもって、人生や仕事を心から楽しめる……、そんな業界になる貢献をしていきたいと思っています。

本年も、宿屋大学をよろしくお願い致します。

2022年元旦
宿屋大学 代表 近藤寛和

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