【21.11.11】ホテルマネジメント雑学ノート(Vol.103)「人間は、ロボットになってはいけない」

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「スシロー」「ユニクロ」「ガソリンスタンド」「無印良品」「自動チェックイン機のあるホテル」「スーパーマーケット」「コンビニ」・・・、私だけではないでしょうが、最近、セルフオペレーションの店舗を頻繁に利用します。

特に、「スシロー」と「ユニクロ」と「ガソリンスタンド」で、実感したことがあります。それは、3店とも「これはサービス業じゃなく製造・流通業だ」ということです。以前は、「小売り・飲食」と「サービス業」の両方の要素を感じましたが、テクノロジーの活用で、限りなく人的サービスが省かれているということです。

「スシロー」では、スタッフとの接点は一度きり。お会計時の皿を数えてくれる時のみ。入店、順番待ちの札をもらう、寿司の注文、お会計などはすべてお客さんのセルフオペレーション。「ユニクロ」しかり。自分で選び、自分でセルフレジを使って会計する。試着する際と、質問する際しか、スタッフとコミュニケーションはない(ユニクロは、セルフレジ導入後、ホールにいる接客スタッフの親切度は増した気がしますが)。

セルフオペレーションのガソリンスタンドを先日利用したのですが、ガソリンを入れている最中にスタッフから声を掛けられました。「アプリをダウンロードしてくれたらガソリン割安になりますがいかがですか」とセールストーク。このトークが、私の目も見ずに、感情を載せず、単なるセリフを発しているだけでしたので、ちょっと気持ち悪くて、無下に断りました。


接客よりもリーズナブルな価格を望んでいる利用者に合わせたビジネス

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つまり、世の中、「いつでも、どこででも、だれにでも、一定の品質で売りさばく」というビジネスに突き進んでいる。

少子高齢化の時代ですし、ある意味これはしょうがないでしょう。それに、こうした店を選んでいるお客さんは、私を含め、「接客よりもリーズナブルな価格を望んでいる」わけであり、そうしたお客さんの都合・要望に合わせることによってビジネスを成功に導いているということだからです。

ビジネスにおいて、利益を残す方法は、言わずもがな2つしかないです。

@ WTP(Willing to pay:顧客が支払いたいと思う水準)を上げる (例)スターバックス マイケル・ポーターが言う「差別化戦略」

Aコストを下げても利益が残る仕組みを構築する (例)マクドナルド ポーターが言う「コスト・リーダーシップ戦略」

で、「スシロー」も「ユニクロ」も「セルフオペレーションのガソリンスタンド」も、上記のAの戦略をとり、それで成功しているのです。



サービスパーソンは不要の時代に・・・



ただ、私がこうした一連のセルフオペレーションの店を利用して感じたのは、「スタッフもこの省力化の流れにのっちゃっている」ということです。人間であるスタッフも、ロボット化しちゃっているということ。「スシロー」のスタッフも、ガソリンスタンドのスタッフも、決められたセリフを、決められたとおりに、感情を載せずに話す・・・。これは、ロボットそのものです。利用するお客さんのほうが「接客」ではなく「コスパ」を選んでいるので、「接客不要」と考えるお客さんに、無意識に合わせちゃっているのでしょう。

この流れで世の中が進んだら、限りなく人的サービスはなくなります。図の左側の部分をすべて技術が担い、人が担うことがなくなりますから。そして、サービスマンは不要になります。ユニクロも、回転寿司も、ファミレスも、コンビニも、すべてお客さんがセルフオペレーションで済む時代になる。ホテルも急速にセルフオペレーションに向かっています。

ここで立ち止まって考えないと、ホテルやレストランの接客スタッフ、やばいです。なぜなら、存在意義が限りなく減少していますから。接客よりもコスパを優先する利用者への無意識の迎合は、とても危険な行為だと私は感じます。

本来、デジタルを始めとしたテクノロジーを使うのは、効率化によって人材を削減するのではなく、ヒトが、ヒトでしかできないことに集中し、人材のアウトプットを引き上げることが目的のはずです。



形がない価値をポジティブに生かす

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製造・小売業は、形がある価値を売りますが、サービス業は、形がない価値を売ります。この本質的な違いを理解すべきです。サービスは形がないから、受け手のニーズに合わせて提供できるんです。これはロボットにはできない。同じものを提供するのはロボットに任せ、人は、人に合わせて価値を変えて提供することに専念し、そのスキルを磨いてほしい。こうしたホテルの接客スタッフの存在意義をしっかり考え、定義して、「人でしかできないこと」を磨いていかないと、本来ホスピタリティを発揮したいと思っているホテルスタッフが、どんどんロボットになっていきます。

私は、「スシロー」でたらふく握りを食べて1,000円払うこともあれば、カウンターに座って板前さんが握る寿司を、板前さんとのコミュニケーションを楽しみながら味わって10,000円払うこともあります。個人的な希望を言えば、宿泊特化でも、ラグジュアリーホテルでも、接客パーソンの在り方は、後者であってほしい(本当は、スシローで皿の数を数えてくれたアルバイトのスタッフからも、「うわあ、たくさん召し上がりましたねえ〜」といった突っ込みもらって会話をたかったし、ガソリンスタンドも、ちょっとした世間話から入ってほしい。そうすればアプリなんて喜んでDLします)。

つまり、いずれにしてもヒトのサービスの質は落としてほしくないのです。DX化の流れ、マンパワー不足などによって、ローコストオペレーション化が加速して、サービスレベルが劣化している日本のホテル業界を俯瞰するに、これを切に願います。そして、「ヒトでしかできないこと」を磨いていかないと職を失いますよと警鐘を鳴らしたいと思います。



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