【19.05.22】連載「ホテルユニフォーム会計のトリセツ」B


連載「ホテルユニフォーム会計のトリセツ 〜元外資系ホテル・ファイナンシャルコントローラーによる非経理ホテルスタッフに贈る経理コラム」by 福永健司 の三回目です。

費用ってひとつじゃないの?



前回はホテルの売上についてご紹介しました。ホテルのみならず売上はビジネスの源泉です。考え方、算式としては下記の通り極めてシンプルであり、皆さんを悩ますものではないですが今後につながるホテルユニフォーム会計を考えた場合には売上を4つのカテゴリー(宿泊売上、料飲売上、ホテル付帯売上、テナント売上)に分けて計上しておくことが必要となります。


宿泊売上=宿泊平均単価×販売済み客室数
料飲売上=平均単価×入客数


前回の最後で出したクイズの答えでもありますが、筆者である私が以前、在籍したホテルでは複合リゾートホテルという性質上、様々な施設があり、例えば動物園を保有していました。平均単価×入場者数の計算式で売上を認識し、今回のテーマとなる費用の項目には「動物の購入代」や「キリンや象の餌代」などがあり驚愕したことを覚えています。

また売上についてさらに書き加えますと下記でも表現できます。


売上=平均単価×販売数×リピート数


顧客であるゲストにファンになってもらい繰り返し利用・購入してもらう、いわゆるリピート数が売上をさらに向上させるドライバーとなります。
すなわち構成要素を鑑みますと現実的には売上を増やすには

➀単価をさらに上げる
A販売数(量)を増やす
➂リピート数を増やす

のどこかに注力することが営業・マーケティング視点で判断し、実行に移すことが求められます。

売上に続き今回は費用について簡単に紹介していきます。



2つの視点で2つのカテゴリーに費用を分ける



売上を得る為に生じる必要な“ひと・もの・情報・サービス”等に対する対価を支払った場合に発生するものを費用として認識、記録していきます。
ホテルユニフォーム会計上では費用を2つの視点を用いて2つのカテゴリーに分類します。

最初の視点は”管理”という見方をします。費用の勘定科目は複数ありますが(例:人件費、食材費、交際費等)のでこれらを一定のルールに基づき適切な勘定科目に記録していくかが管理の際の肝となります。会計にはいくつかの原則がありますがその中に『継続性の原則』というものがあり、基本、一度記録先を決めた勘定科目はその使い方を継続して使い続けるというものです。記録先や記録内容がその都度違うとホテルユニフォーム会計の機能が損なわれその有効性が発揮できない可能性があります。

金額を支出した際に、費用と認識しても昨日と今日、あるいは昨年と今年に違う勘定科目を用いて記録すると最終的には整合性がとれなくなります。従って勘定科目に記録する各経費は当初に決めた内容・種類に注意し記録していくことが求められます。

またもう一つの視点としては”実態“としてその費用の性格を区分けします。特にこの見方は費用を削減するなどの具体的なアクションをとる際の目安になりえます。上述の”管理“が正しく実践されていることが前提条件となりますが勘定科目を「変動費」と「固定費」という括りで費用をカテゴライズするというものです。

「変動費」とは売上に連動する費用であり売上が高いとそれに応じて費用も増加し、売上が低いと減少するという相関関係がみられるものです。また「固定費」とは売上の大小に左右されることなく一律かかる費用のことです。どちらが良い悪いというものでなく、その性質に特徴が見られ、特に固定でない変動費については運営側の自助努力により削減が可能なものがあります。



勘定科目の内訳の代表例



ホテルユニフォーム会計の章で再度、詳細を説明しますが勘定科目の代表的なものには下記があり、その内容はホテルの考え方により多少の差はありますがおおむね同じです。

食材・飲料原価(レストラン、宴会場での食材・飲料仕入れ)
人件費(社員、パート、派遣の給与・残業・賞与などからなる)
客室清掃費(ハウスキーピング、1部屋当たりの金額)
消耗品費(運営用の各種消耗品購入費)
外注費(多岐にわたるが警備費用、施設管理費用などがある)
代理店手数料費(リアル・ネットエージェントへ支払う手数料)
旅費交通費(営業や各種出張に伴う費用)
交際費(営業的な要素に伴う費用)
広告宣伝費(各種媒体やPR費用)
水道光熱費(ホテル施設で利用するエネルギー費用)

前述、「変動費」と「固定費」ですが、シンプルな例でいえば変動費は食材・飲料原価や代理店手数料となり、固定費は社員の給与である人件費や契約で決まっている管理保守費用などとなります。

今後のコラムで触れることになります売上が思うように上がらない、あるいは外的要因(テロ、天災、疫病等)によって緊急避難的に経費削減を実施する必要が生じるのは現実的にはよくある話です。

その際に固定であり変更することが不可能(例外は除く)な費用に尽力するよりも変更可能でありホテルがコントロールできる費用(すなわち変動費)にフォーカスし、注力する方が賢明であり効果が期待できるということについては賢明な読者の皆さんもお気づきだと思います。
費用構成の算式を考慮すると単価の引き下げ、利用料もしくは利用回数の減少というのが理論的な行動計画となります。

もちろんこれにより顧客満足度が下がる、ホテルの評価が毀損する、スタッフのモチベーションが減退するということを避けた上で実践するというハードルがあるのはご承知のとおりです。



費用の割合を掴んでおく



費用の割合を大まかに掴んでおくことも大事です。

フルサービス型ホテルの大まかな目安は人件費25〜30%、運営費用(含む食材・飲料原価)20〜25%、営業関連費用10〜12%、水道光熱費で5〜8%前後となります。

こうした数値が肌感覚で分かってきますと現状への理解が深まり、ステークホルダーへの説明には厚みが増し、そして何よりご自身に自信がついてくると思います。

このあたりも今後のコラムで引き続き取り上げながら進めていきます。


【次回に向けてのクイズ】



恒例(?)のクイズです。

ホテルは労働集約型の産業であり、同時に施設・装置産業でもあります。鉄筋コンクリ―トを用いて建てた1億円のホテルが仮にあったとします。
日本の税法上、この建設費用を39年間の期間で毎年同額(1億÷39年=約250万)を費用とし、認識することになっています。これを会計・経理ではなんと呼ぶでしょうか?



ホテルユニフォーム会計のトリセツ 目次

➀売上?収入?所得?売上にまつわる話
A費用ってひとつじゃないの?
➂やっぱりこれが肝心…利益
C損益計算書にだまされるな
Dホテルユニフォーム会計の正体
Eホテルユニフォーム会計を使っていかに暴れるか?
Fホテルユニフォーム会計の導入
G数値はビジネスをする上での相棒である
Hファイナンシャルコントローラーの視点
Iファイナンシャルコントローラーの役割

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