【15.02.23】「ホテル総支配人の6つの力」 by 福永健司氏 第二回「ビジネス力」

第二回「ビジネス力」


 当然ではありますが、ホテル業はビジネスでありホテル全体を統制する総支配人はその役割を全うする義務があります。
 誤解を恐れずに言えば日本でのホテルの生い立ちを考えると、いくつかのホテルを除き「親会社やオーナー会社の意向が強い(強かった)」傾向にあったことは否めないのではないでしょうか。欧米のホテル業界に比べ、集客からキャッシュフローにいたるまで、ホテル運営に親会社が関与し、ホテルも親会社に依存をする傾向がありました。
 かつては、親会社の生業に付随する、あるいはブランドイメージ向上のためにホテルを所有するケースが多かったのですが、近年ではマネーゲーム、投資・投機活動の対象として所有することも盛んになってきています。
 その結果、ホテルの運営そのものは変わらないけれど、ホテルの立ち位置や経営方針に大きな変化が生まれているのです。
 それは、すなわち独立独歩、ビジネスとしての成果をホテル単体で求められるようになったということです。「企業の目的(パーパス)は利潤の最大化である」ということであるならば、ホテル業を、ホテルを司る総支配人にビジネス力を求められるのは当然の帰結となります。



 では、そのビジネス力は、どうやって測るのでしょうか。
 ホテルというビジネスの性質がゆえ、モノサシは複数あります。英語で言うところのKPI(= Key Performance Indicator)が複数存在するのです。
 KPIはすべての業種に存在します。ですので、私はそのビジネスの本質を知りたい場合、もしくは何がポイントなのかを知りたい場合、「KPIは何か?」を聞くことにしています。そして、それをすんなり答えられれば、「その人はそのビジネスを分っている」と判断します。ですので、総支配人を目指すみなさんは、「ホテルのKPIは何か?」と、その内容を客観的な要素(数値等)で説明できないといけないのです。
 ちなみに「ビジネス力」の一部になりますが「Accountability(=説明責任)」は立場上、自身を取り巻く360度に存在します。オーナーやお客さまはもちろんのこと、会社代表(社長)、部門長、ホテルスタッフ全員、外部者(マスコミ、取引先事業者、協力関係先)などすべてです。これらの利害関係者(ステークホルダー)にどういった言葉、内容で説明し、説得、折衝(総支配人に必要な3つの“せ”)をすることができるのかは重要な要素なのです。

 KPIを考える際のゴールデンルールは、プロフィットチェーンと呼ばれるフローです。スタッフがhappy ならゲストをhappyにし、その結果としてKPIの指標の向上が見込まれ、オーナーも happyになり最終的には総支配人もその責務を果たせ happyであるという流れです。



 ホテル総支配人のKPIは大きく分けて4つあります。
 1つ目は「スタッフ」です。注目すべきは従業員の満足度、そして退職率。従業員満足度を数値化するのはその投げかける質問の内容を含め難儀ではありますが、個々のコメントもさることながら部門別やチーム別の体系で測ると多くの情報が網羅され、現状が垣間見えてきます。特定の部署や部門で高いレベルの退職率がある場合は問題があると判断できるのです。特に人材不足、採用が非常に難しい現状を考えますとこの指標はより大きな意味をもっています(ただし、“健全な退職率”、適切な退職による入れ替えが必要な場合もありますので退職率が0である必要はありません)。

 2つ目は、「ゲストの視点」です。既に多くのホテルで取り入れている顧客満足度やリピート率は、多くの示唆を与えてくれ、ビジネスそのものに大きなインパクトを及ぼすことは周知の事実です。

 3つ目は、“(ある)べき論”としてのホテルの姿を現す指標、例えばリスク(危機)管理、衛生管理あるいはブランド管理などの数値になります。ホテルビジネスをシンプルに言ってしまえば(かなり端折りますが)「清潔で安心・安全な部屋を提供し、気分よくお帰りいただくこと」と定義すれば、まずは安全であり有事の際も適切に対応できる状態である必要があり、また提供する食事を含めて客室は衛生的に問題がなく、後は各ホテルの特性(=ブランド)を首尾一貫して提供できる体制を用意することです。これらを何らかの形で数値化し定期的に品質の確認を施す必要があります。

 そして最後に「財務的な数値」です。ビジネスとしてみた場合のホテルの状況をPL/BSなどの財務諸表を見れば端的に証明することができるのです。



 この4つのほかにも、環境に優しい企業かどうかを測る「サステナビィリティの度合い」など、総支配人、ホテルマネジメントの取り組みの成果を測るKPIは存在します。

 最も肝要なのは、こうした理屈や数値を頭に置きつつ、継続して結果を出す、出し続けることです。これが求められます。瞬間的に、あるいは単年として結果を出すことを求められることもあります。また、ゴーイングコンサーン、すなわち企業として永続性を問われることもあります。そのためには、近視眼的にならず中長期的な視点、思想をもってことにあたる必要があるのです。
 適切な指標を基にPDCAサイクルの4段階を繰り返すことによって、ときに細かく、ときには大局的な見地から地道にチームと共に努力し、結果につなげる。
 それを総称して私は「ビジネス力」と呼びたいと思います。


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