【14.09.10】第八回「日本のおもてなしは競争優位になるか 〜シンガポール×ホスピタリティビジネス〜」 by 臼杵さおり(シンガポール在住)

文化の違いの乗り越え方


ホテルマンはグループ内で勤務地が変わったり、ポジションアップを目指して他のホテルへ移ったり、異動がつきものですね。同じ業界でも、これまでと違う環境やチームで力を発揮するには、こんなにも大変なのか、そう実感したことのある人も多いと思います。

私は九州のホテルのレストランで働いているとき、料理をお出しする順番として「年配の男性」から出していました。ところが東京の外資系ホテルで、初日にそれをやってしまってすごく怒られました。「ここではどんなときもレディーファーストです!当たり前でしょう?!」と。同じ日本でもサービスの仕方が違うんだなと実感したものです。

一方、大学時代キャミソールにショートパンツという格好をしていたインドネシアからの女子留学生が、実はムスリム(イスラム教徒)と知ったのはずっと後になってからでした。留学生って案外自分と同じ感覚を持っているのかもしれないと気づきました。

「文化の違う外国人でも案外自分と同じような感覚を持っていて、逆に同じ日本の中でも、場所や文化によって多様な文化が存在している」

最近シンガポールで飲食店を運営する日本人経営者から「スタッフがすぐに辞めてしまう」という相談を受け、ふとこの言葉を思い出したのです。



飲食店スタッフのやる気スイッチを探して


シンガポールの飲食業の現場スタッフは時給400円台からのスタートです。最低賃金の定めがないため、給与は自由に決めることができます。しかし人気は高くないですし、突然休むことも日常茶飯事。突然休まれたらイヤじゃないのと聞くと、それはそれ、これはこれと淡々とした様子です。

また職場には、シンガポール人だけでも、中華系、インド系、マレー系がいて、さらに外国人もいて、互いに第2言語である英語を使って会話しています。しかし誰にとっても母国語でないため、うまく気持ちを伝えられない人も多いようです。

とても進んで働きたいと思えない状況で、離職率を下げ、長く働いてもらうにはどうすればいいか−−−?この課題に悩む中で、「異文化の中に共感点を探し、同質文化の中の多様性を認める」この言葉を思い出したのです。

相談を受けた経営者には、これを軸に従業員満足を高める仕組みを提案しました。なぜここで働いているか背景や理由は異なるが、この職場に属することの楽しみ、や家族のように受け入れられている安心感を持って働きたいという気持ちは共通のはず。契約に基づく労働者のチームではなく、アジア的家族観を軸にした働き方を目指していくのはどうでしょうと。

「海外進出の第二段階、当地のスタッフと共に企業文化を作っていく覚悟があるか」という問いですね、と担当者は笑っていました。




人材不足はチャンス!


グローバル化とデジタルデバイスの進化に伴う産業の急速な変化に、人材が追いついていないのは世界共通の課題のようです。日本はこれに加えて少子高齢化、都市と地方のあらゆる差異も追い打ちをかけます。

物理的に人手が足りないことと、求める仕事をこなせる能力開発が間に合っていないこと、二重の人材不足で、企業はつらいでしょうが、逆に働く側にとっては、会社に対話を求めるチャンスでもあります。事業の発展と人材の活用法が合致するのは企業としてもウェルカムのはずです。これを機に、どんな働き方をしたいのか会社に逆提案してみてはいかがでしょうか。



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