【13.11.26】ホテルマネジメント雑学ノート(Vol.75)

ホスピタリティ・ロジックと里山資本主義


(株)プレディーカ・マネジメントの代表取締役社長である石丸雄嗣氏が伝える「サービスとホスピタリティ」の違いを理解すると、世の中がとても面白く見えてきます。いろんなものの性質が理解できてくるのです。そして、大抵のものはどちらかに当てはまるか、どちらかの方向に向かっていることに気付きます。
 簡単におさらいしますと、サービスとは「いつでも、どこでも、だれにでも、画一的に提供する行為」であり、関係性は1対多。効率性重視。一方のホスピタリティは、「いま、この場所で、この人のためだけに提供する行為」であり関係性は1対1。
 下記は、石丸氏の見解ではなくて、私が日常生活で感じている物事をどちらかに分けたらこうなるなというリストです。


 そして、知らず知らずのうちにそれらを使い分けています。
 たとえば、不慣れな街(私にとっては町田市のような一度も行ったことのない街)に仕事で行った際に短時間で腹ごなしする場合、マクドナルドやガストのようなチェーン店に行きます。無難だからです。一方、同じ不慣れな場所でもプライベートの旅行となると間違いなくチェーン店には行きません。ローカルの味を楽しめる店を探します。
 身に着ける服についても、アンダーウエアなどのパーツ的なものはユニクロやヘインズのようなものを使いますが、ジャケットや靴など、自分がこだわりたいアイテムは、好きなブランドのものを選びます。
 100枚を超えるご案内を出すときはプリントアウトしたものを送りますが、ある特定の人数人に送るメッセージは手書きします。

 私たちは、サービス・ロジック(産業)によって、便利な世の中を手に入れました。100万円出せば素晴らしい機能を備えたコンパクトカーの新車が買えるし、コンビニやネットショップのおかげで、いつでも、どこでも、欲しいものや情報が手に入ります。100円でそこそこ美味しいハンバーガーが食べられ、100円ショップに行けば素敵な薄口タンブラーが手に入ります。ユニクロに行けば、何年も着られるフリースジャケットが2000円以内で購入することができます。
 しかし、そちらの方向(サービス)に行くと、人と人との心の交流はなくなってしまいます。効率的であればあるほど、心という一見非効率・不合理なものは無意識に排除されていきます。顔が見えなくなります。好きなアパレルショップの店員さんの顔と名前は覚えますが、ユニクロの店員さんは一人も知りません。ヘアサロンも好きなスタイリストとは心の交流を感じますが、1000円カットのQBハウスの店員さんからは、「とにかくスピーディーにさばく」作業しか感じません。
 効率性、労働生産性を重視すればするほど、人は「心」をなくし、顔を見なくなるのです。つまり、ロボット的になります。JRの改札のように、人がしていたことが、機械やロボットに取って代わったこともたくさんあります。

『里山資本主義』(藻谷浩介、NHK広島取材班 著、KADOKAWA 刊)という本を読みました。ロングセラーになってすでに15万部も売れている書籍なので、ご存じの方もいるかと思いますが、内容は、「エネルギーをグローバル市場から買うから、グローバル経済に翻弄される。地域でエネルギーをまかなうことができれば、そんな波に翻弄されることはない」といった主張をされています。そして、そんな方向に舵を切って成功している中国地方の村や、オーストリアを取材して、その豊かな生活を紹介しています。木材から作られるペレットという燃料は石油の倍のコストパフォーマンスを発揮しているそうです。
 もちろん、便利さをすべて放棄しようということではなく、マネー資本主義が席巻しているグローバル経済の限界を感じている多くの読者に、里山資本主義のような生き方、社会の在り方もあるのだよという提言をしてくれています。
 お気づきでしょうが、「里山資本主義」こそ、ホスピタリティ・ロジックの創り出す社会です。同書の154ページにこんなメッセージがあります。
「持つべきものはお金ではなく、第一に人との絆だ。人としてのかけがえのなさを本当に認めてくれるのは、あなたからお金を受け取った人ではなく、あなたと心でつながった人だけだからだ。(中略)里山資本主義の実践者は、そのことを実感している」
 
 グローバル経済、サービスロジックを放棄して、ホスピタリティを極めましょうなんて、ゆめゆめ思いません。これからは、両方の良さの“いいとこ取り”する生き方が、豊かな社会を創っていくのではないかと思います。
 小資本の企業は、間違いなくホスピタリティでビジネスをしていくべきかと思います。いまさら安さが売りのハンバーガーショップをやっても、安さが売りの総花的アパレルショップをやっても、マクドナルドやユニクロに勝てるわけがないのです。人件費が高い日本は、これからは何を作ってもコスト優位性でアジア諸国に負けるでしょうから、ホスピタリティ・ロジックに注目すべきかと思います。
 つまり、「あなたのために」というスタンスで価値を提供し、「あなたから買いたい」と言ってもらえる顧客と心でつながり続けることが注目される世の中になる気がします。
 



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