【14.04.01】第三回「日本のおもてなしは競争優位になるか 〜シンガポール×ホスピタリティビジネス〜」

「ホスピタリティ人材はどこにいる?」


 別府に湯布院、温泉、豊後牛、関アジ関サバ、大分麦焼酎……、私は、福岡県から大分県の大学に進学したのですが、そのときは、「大分は田舎だなぁ」と思いましたが、温泉に30円で入れるし、海、山、川があり、授業の合間によく遊びに行っていました。大分県では1980年から「一村一品」運動という、特産物振興運動を推進し、地域ブランド確立に早くから取り組んでいたので、魅力的な場所が沢山ありました。
 今回は、ホスピタリティ人材とその組織デザインを考えてみたいと思います。


1、手元にあるものを資産化する

「地域の魅力を商品化する」とよく言いますが、ちょっと考えてみると、「商品化」でなくて、「資産化」したいということなのかなと思います。
「商品化」とは、手元にあるものに、市場価値からはじき出した、値札を張って並べ、購入されて、消費されて、文字通り消えてなくなってしまうこと。
 一方、「資産化」とは、手元にあるものを、少し遠くから見て、「実はそこにしか、ないんじゃない?」という部分に注目する。そして、それしか目に入らないように、余計なもの少しずつを消していく。資産は無くならないので、売れるか売れないかにあまり関係なく、「こんなにいいものだったんだ」という発見を繰り返していくこと。
 では、サービス業において、人材とは、商品でしょうか、資産でしょうか。
 大分と同じくらいの知名度だったのに、一躍全国区になった彼が率いる熊本の観光ビデオに答えがあります。

 「くまもとで、まってる。」
                

「いい人材いない? ホスピタリティのある人材はどこにいるの? 誰でも教育したらいい接客ができるようになるの?」

 これは私が最も多く受ける質問です。
 答えは映像に出てくる通りです。


2、個人とチームの「型」

 あなたや、あなたの周りにいる人がホスピタリティ人材であり、もしそうでないと感じるなら、「資産化」というプロセスを経てないだけです。個人のホスピタリティの「型」と習得と、チームでの「型」の習得。教育とOJTで誰でも十分ホスピタリティ人材になれると考えています。
 サービス向上のために接客研修を行っても、そのブランドとマッチしていなかったり、今の忙しさの中ではできないことだらけだったりでは、役には立ちません。お客さまと接するもっとずっと後ろのほうから、コミュケーションをデザインし直す、といった発想が必要です。特に、飲食店やホテルなど、グローバルにビジネスを展開するサービス業の場合、従業員の背景も多様、お客さまの好みも色々となった場合、どのようなサービスをどんな形で提供するか「型」が命です。
「型」とは何か。それはズバリ、体、筋肉の動かし方です。スポーツやダンスの振り付けを教えるように手足の動かし方をやってみせ、そして言葉でも伝えます。ホテルのスタッフに研修するとき、「丁寧に」「ゆっくり」と言っても感じ方は人それぞれです。具体的に「ドアが閉まるまでドアノブから手を離さない」「足音をさせずに歩く」と言うと、外国人のスタッフや新人スタッフにも伝わります。ぎこちなくても、なんとなく「型」らしきものができはじめます。「型」らしきものができてくれば、リズムが掴めるようになります。根拠はないのですが、サービスは三拍子を意識すると、美しく見える気がしています。
 次にチームの「型」を作ります。どういうことが起きたら、誰がどう動くのか、パターンを作っておく。問い合わせをしても、「後ほど営業から連絡します」といって連絡が来なかった、といった経験が誰にもあると思います。窓口に入った問い合わせの担当の振り分けはどうするのか。現在一人に届くメールは一日あたり平均100通だそうです。サービス業や製造業の現場に近い部署は、管理・事務作業が苦手な人が多いので、誰がパンクしているか、どこがコミュニケーション不全に陥っているか、その際は誰がサポートに入るのか、サポートに入った人の業務外の業務はきちんと評価されるのか、いい接客ができるかどうかはチームの「型」ができているかどうかで9割決まっています。



3、「多対1」になるようにコミュケーションをデザインする

 ホスピタリティは、「1対1」の技術と言われますが、目指すは「1対1」の場面をなるべく多く作り、お客さまから見て、「多対1」を実現することです。
 多くの場合、感動は、数や量に関係しています。本では、思いやりのあるスタッフとお客さんとの交流が描かれますが、現場を見ていると、また足を運んでくれる理由の多くは、「あの人がいるから」というより、「いつ来てもいいサービスが受けられるから」という信頼です。予約の人の感じがよかった、エントランスですぐに気づいてくれた、チェックインがスムーズだった、そして段ボールの荷物を届けてくれたときに、カッターも待って来てくれた。
 それが最後の一滴となって、ししおどしがカッコーンと鳴るように相手に響くのが、目指すところです。あの人もこの人も私のことを認識してくれた!承認された喜びは、「安さ」よりずっと心を掴みます。
 ホテル、レストラン、車や家の購入、保険、フィットネス会員…いずれも購入決定後に始まるサービスです。購入前、購入時、購入後と、担当者が変わっていっても、信頼関係は引き継げる「多対1」。チーム内でのやりとり、他部署とのやりとり、メール、電話、データベースの活用を再確認し、「多対1」のコミュニケーションをデザインしてみてください。
 この春、新しいスタッフを迎えるみなさま、その人に対して「多対1」のコミュケーションを試みてください。上司やチューターに相談できない悩みが毎日山のようにありますから。
 ホスピタリティ人材は身近にいます。




【14.03.22】宿屋大学ビジネスセミナーDVD、新たに2タイトルをリリース「レベニュー・マネジメント入門講座」&「自ら動くホスピタリティ組織の作り方」

 宿屋大学は、「宿屋大学ビジネスセミナーDVD」のシリーズとして、下記二つ
を新たにリリースしました。
 もっとたくさんの方に視聴いただきたいという講座を厳選し、リアルの講座に参加
できなかった方のために、受講料と同料金で提供するDVDです。


【Vol.16】「レベニュー・マネジメント入門講座」
             C&RM株式会社 代表取締役 小林 武嗣 氏
             http://yadoya.theshop.jp/items/429960
           
  ★2014年1月15日に開催された講義を収録したものです。
   http://yadoyadaigaku.com/program/PP1305.html



【Vol.17】「自ら動くホスピタリティ組織の作り方
          〜アプローチ・オペレーションを発動させるマネジメント」
  株式会社NAVI(ホテルグリーンコア) 代表取締役社長 金子 祐子 氏
             http://yadoya.theshop.jp/items/429965
           
  ★2013年8月28日に開催された講義を収録したものです。
   http://yadoyadaigaku.com/program/JK1308.html


 価格は、どちらも4200円(税込)です。


●「宿屋大学ビジネスセミナーDVD」
   http://www.yadoyadaigaku.com/dvd/index.html
   

■□■ 宿屋大学 今後の講座予定は…… ■□■

●2014年3月29日(土) 13:00 〜 18:00
【入門講座】ホテル業界入門講座 〜 ホテルを構造や本質的価値から考える
                    講師:宿屋大学 代表 近藤寛和
          http://yadoyadaigaku.com/program/PP1307.html

●014年4月4日 (金) ・5日(土)
【宿屋塾】「ホスピタリティ・ロジック講座@関西」(3講座開催)
    「自ら動くホスピタリティ組織の作り方」 by 金子祐子氏
    「ホスピタリティ・ロジック講座(入門編・上級編)」 by 石丸雄嗣氏
          http://yadoyadaigaku.com/program/JK1401.html

●2014年4月17日(木)19:00〜21:00
【宿屋塾】「宴会レベニュー・マネジメント講座 〜宴会場の売り上げ最大化に向けて」
         講師:ホープ コンサルティング サービス 代表 岡村望氏
          http://yadoyadaigaku.com/program/JK1402.html

●2014年4月22日(火)19:00〜21:00
【宿屋塾】「「ユニバーサルサービス入門講座
         〜思いやりの行動を正しく実践するための接客マナー〜」
        講師:株式会社ミライロ 代表取締役社長 垣内俊哉氏
          http://yadoyadaigaku.com/program/JK1403.html
        
●2014年6月7日(土)〜12月27日(土)全15回
【基礎講座】第三回「プロフェッショナルホテルマネジャー(PHM)養成講座」
          http://yadoyadaigaku.com/program/BS1401.html












【14.03.18】ホテルマネジメント雑学ノート(Vol.81)

優良企業に共通する合言葉

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 就活シーズンになると学生に就職活動の話をする機会が増えます。そこで最近は私が気に入っている内田樹氏の「キャリアのドアに、ドアノブはない」という話を披露します。
 この話は氏のブログ「内田樹の研究室『仕事力について』」に詳しいので興味のある方はそちらをお読みいただきたいのですが、簡単に解説すると「キャリアのドアは自分で開けるものではなく、誰かが開けてくれるのを待つものである」ということです。「仕事とは、自分で選ぶものではなく、仕事の方から呼ばれるもの」ということです。
 これは私自身の経験からも納得する説であるし、天職についてのいくつかの書籍にも同様のことが書いてあります。私が学生の頃、旅行作家になりたかったのに今はビジネススクール運営を夢中になってやっているし、「好きでもないのになぜか続けてしまった仕事が実はあなたの天職なのだ」という話が書籍に書かれています。
 だから学生にはこう言っています。
「とにかく精一杯、就活をやってください。その結果があなたにとって最善の結果です。そこでとことん頑張ってください。天職はその先に見えてきます」

 では、キャリアのドアはどういう人に開かれるのか。
 今回のブログのポイントはここです。
 それは、「あ、それ、私、やっておきますよ」と言える人です。これが答えです。
 仕事というのは役割分担や範囲が決められているのがふつうです。「Aさんの仕事はこれとこれとこれ、責任の範囲はこういうことです。これ、しっかりやってね」と決められている。そして、BさんもCさんもDさんも決められている。
 ところが、全員が自分の仕事を完璧にやったところで企業は絶対にうまく機能しません。
 なぜなら、AさんとBさん、BさんとCさんの間にも必ず仕事は発生するからです。誰がやってもいいけれど、誰かがやらなければならない仕事という仕事が必ずあるのです。
 こういう仕事を積極的に拾っていく人に、キャリアのドアは開かれるのです。
 そして、そういう人をたくさん持っている企業こそ、堅強な企業といえます。
 企業とは、個人ではできないことをたくさんの人が集まって行なうことでより大きな価値創造をするために存在するものです。ですので、集まった個人がバラバラな動きをしていては目的の遂行をしづらくなります。一人一人のやらなければならない仕事の範囲(米国ではジョブ・ディスクリプションというものに明確に記されます)と範囲の間に転がる仕事を放置する企業は穴だらけの企業です。かならず問題が発生し、発生すると誰かのせいにします。だからこそ、結束を強めるかのように一人一人の業務範囲の間の溝を埋める「あ、それ、私、やっておきますよ」という行為が必要なのです。
 それを言える人がたくさんいる企業は本当に強いし、間違いなくみんな笑顔で仕事をしていますし、顧客満足度も高い企業です。そして、仮に問題が発生しても誰かのせいにするのではなく、問題の根本原因を皆で考えていくことができる優良企業と言えるのです。


≪予告≫
 私が夢中で取材しているホテルグリーンコアは、上記のスタンスの典型的な企業ですが、そのグリーンコアを綴った『巡るサービス』の第二弾(タイトル未定)の原稿を昨日入稿しました。249ページ。あとは、編集者と推敲を重ね、「あとがき」を仕上げていきます。
「ぶんか社」さんというわりと大きな出版社さんから6月14日発売です。
 テーマは、「自発性を育む見守るマネジメント」。グリーンコアのクリティカルコアである「アプローチ・オペレーション」を下支えするのがスタッフの自発性(やらされるのではなく、自らやりたいという欲動でホスピタリティを行動に移す)ですが、それを実現するのが「見守るマネジメント」。その事例(エピソード)と、なぜそれが必要なのか・・・。
 もう一つは、「Worth」の探求。高利益率や規模の拡大ではなく、お客さまとのご縁を大事にすることで長期利益、長寿企業を目指す経営。そのために必要なのが唯一無二の「Worth」。日本の企業が目指すべき方向はこっちじゃないでしょうかというメッセージです。
 そんな思いを一冊に込めました。

 乞う、ご期待です。

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【14.03.06】本気の人を本気で育成したい

第三回「プロフェッショナルホテルマネジャー養成講座」開講に向けて


 今年6月、三回目となる「プロフェッショナルホテルマネジャー養成講座(通称:PHM)」を開講します。
 ホテル総支配人やプロフェッショナルホテルマネジャーに必要な知識やスキルを体系的に、ホテル業界の内外で活躍する選りすぐりの講師陣から、半年間で学ぶ本講座は、過去2回開催し、好評を博しました。それぞれ30人近くの受講生が集まり、高い満足度も得られました。
 ところが、一部の講師からこう指摘されたのです。
「確かに満足度は高いけれど、我々は本当の意味でのプロフェッショナルホテルマネジャー人材育成ができているのだろうか」
 宿屋大学が定義するプロフェッショナルホテルマネジャーは、CS(顧客満足)、ES(スタッフ満足)、Profit(利益)をバランスよく高めることのできる人材です。現場のホテルオペレーションを理解し、ビジネスや数字にも強く、オーナーや投資家ともわたり合える「筋金入りのホテリエ」です。
 ちょうど一年前、ご指摘を真摯に受け止め、一年間本講座をお休みし、一年をかけて取り組みのスタンスを熟考することにしました。ホテルオーナーやホテル経営者に会ってアドバイスを受け、私自身が大手のビジネススクールに通ってその取り組みを学んだりしました。ご指摘をいただいた講師やパートナーである東京YMCA国際ホテル専門学校の小畑貴裕校長などとも5〜6回のミーティングを重ね、変革案を練りました。


 根本的なこととしてまず理解をシェアしたのが「セミナーと人材育成は別物」ということです。
 宿屋大学が平日の夜に二時間の枠で開講している「宿屋塾」は、セミナーです。必要としている人に必要としている知識やノウハウや情報をコンパクトにまとめて提供するものです。
 一方の「人材育成」は、とてもではありませんがアットランダムに開催するセミナーをチョイスして受講してもらうくらいでは人材育成にはなりません。ここはやはり、体系的な講座構成を組み、強い意志を持った受講生に対して強い意志を持った主催者と講師がタッグを組んで取り組まなければなりません。その関係は講演者とお客さまというものではなく先生と生徒という関係であるべきです。主催者はプロフェッショナルホテルマネジャーへの道のりの伴走者です。
 そして、その関係は講座修了で終わるのではなく、生涯繋がるものであるべきと考えるようになりました。


 第三回「プロフェッショナルホテルマネジャー養成講座」は、このように覚悟を決めて開講いたします。世界に通用するホテリエを目指したい方、ホテリエ道を追求したい方など、ぜひ半年間共に学びましょう。覚悟を持って!


【14.03.04】新連載 第二回「日本のおもてなしは競争優位になるか 〜シンガポール×ホスピタリティビジネス〜」

ビシっと!!ジャパンキャンペーン 〜旅行博で日本の売り方を考える

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1、成約総額1億ドル(約63億6500円)の裏側

NATAS (National Associations of Travel Agency Singapore)が年2回開催している国際的な旅行博がSingapore EXPO(チャンギ空港の近く)で開催されました。

各国・地域の観光協会、旅行会社、ホテル、クルーズ運行会社など約160団体が出展し、各地の魅力をアピールしました。来場者は、各地の紹介を見て回り、気に入った場所があれば、旅行会社のカウンターでツアーを申し込むことができ、沢山のパンフレットを見比べたり、値引き交渉したりしていました。

旅行会社カウンターの後ろには、9つもの銀行のブースが設けられ、現金を引き出すこともできます。旅行博会場で、「旅行地選定→ツアー選び→現金引き出し→旅行代金支払い」までできてしまう仕組みです。また会場で旅行を申し込むと、スーツケース等が当たる抽選会も。なんて抜かりないのでしょう。

          *成約総額1億シンガポールドル、当時のレート(2012NATAS)

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2、ちょっと惜しい日本ブース

日本ももちろん出展しています。政府観光局を中心に、各地観光協会等12、運輸2、旅行会社2、ホテル1などから成り、デスティネーションとしては一番大きなブースだったかと思います。

ただ、日本ブース含め会場全体的に、来場者はそこまで多くなかったように思います。初めて海外旅行に行く人が色々見るには旅行博は向いています。しかし、インターネットで情報を得て旅行を予約できる昨今、旅行博にわざわざ来場しようとする人はそれほど多くないのかもしれません。

2013年は約19万人のシンガポール人が日本を訪れ、その約8割がツアーではなく個人旅行であり、1回の旅行で7日以上滞在する人が約半分、訪日回数も2回以上という人が70%以上です。リピート訪問客には、ゴールデンルートや北海道、九州に次ぐ、次なる目的地として、四国、岐阜、長野などが注目されているそうです。さて、そんな日本のブースですが、もったいない…と思うことが沢山ありました。

@「なんか、日本ブース盛り上がってるね」が聞きたくて

そう言われるには何が足りなかったのかと考えてみると、浮かんでくるのがB級グルメ大会の会場です。開場前からお客さんが並び、作る方も食べる方も必死。グランプリを獲りたい!という競争意欲と、おいしいもの食べたい!という、お客さんで、いい場の空気ができる。お皿が足りなくなったら、完売したとなりの店が分けてくれた。そういうホットな雰囲気が、旅行博の日本ブースにあればもっとよかったのにと思います。

B級グルメ会場に学ぶとすると、政府観光局は、ビシっと「訪日旅行2000万ドル成約を目指します!!がんばりましょう!!」と目標を掲げる。各観光協会の人は「ははは。まー目標はよう分からんけど、自分の住んでるところに旅行に来てもらえるのはうれしいなー。きれいな山も川も見せたいです」という個人的な情熱に火をつける。となり同士はライバルだけど、わが町に来てほしいという気持ちは同じ。この連帯感。この両方が融合すると、ものすごくあたたかい雰囲気になるはず。場づくり、というのでしょうか、なんか日本のブース盛り上がってるね、というお祭り的雰囲気をもっと作っていきたいものです。

A「行きたいな」を「予約しちゃった!」までガイドする戦略

「MATSUMOTO」「JR East」「HOKURIKU」「Hello, JAPAN」「ASO」「City of Nigata」「HATO bus」「○○RESORT」「TOHOKU」
これらの看板が日本ブースに掲げられており、来場者が立ち止まっていました。「ねえ、桜見たいんだけど、どこに行けばいいの?」という質問に、私も戸惑ってしまいました。参加団体を順番に並べたら、こうなるのかもしれませんが、来場者には、ちょっと不親切だったかもしれません。

例えば、日本地図をブース入り口に設置して、参加している観光地がどこにあるのか掲示したり、参加団体が観光協会なのか、運輸業なのか、宿泊業なのかマークをつけて区別し、つながりが分かるような相関図を作ったり、来場者目線でもう少し工夫できる点があったかもしれません。

博覧会の目的は多くの人に向けて情報を発信するというものですが、それだけでなく、シンガポールの旅博では会場内で旅行予約まで可能です。人はテレビや雑誌でこんな旅先があると知ってから、実際に旅行を決意するには、もう一歩、気持ちの高まりが必要です。日本ブースにおいて、情報発信というサービスを超えて、相手の気持ちを一段押し上げるような顧客目線のホスピタリティが発揮できればと思います。


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B日本の見せ方〜情報をしぼる勇気〜

「九州って何が魅力なの?」「食べ物、自然、温泉、人が優しいです」「でも、それって北海道や北陸でも一緒だよね」「え、いや、あの、白身魚、地鶏、黒豚、活火山もあります…」「北海道でも、いくら、うに、夜景、牧場スイーツ、スノーアクティビティとかあるじゃない?」

日本はどこに行っても魅力が多いので、ついあれもこれもアピールしようと情報が多くなってしまいます。その結果、項目の列挙に留まり、お客さんから見ると、どこも良さそうに見えて違いがよく分からない。という状態に。レシピ本で言うと、材料一覧はあるけど、どう調理したら、おいしいのかまでは書いてないといった感じです。嬉しい悩みですが、豊かな観光資源にどうストーリーをのせてアピールするのかが今後の課題に見えました。

その点、「見せ方が上手いな」と感じたのは、おとなり、台湾ブース。食べ物、フルーツ、温泉、お茶、穏やかな自然など、日本と観光資源が似ているライバルです。しかしブースはすっきり。選りすぐった大きな写真がどーんと出ています。北側の壁は、小籠包。南面には温泉と自然だけ。目に入る情報量は日本の20分の1くらい。でもストーリーが浮かび、想像力をかき立てられました。

もちろん、日本より面積が小さく、統一したイメージを作りやすいのでしょうが、台湾の「売り」が何なのか、とても分かりやすかったです。日本ブースでは、各地の魅力をアピールするばかりで、日本地図すら会場にありませんでした。日本全体を俯瞰してコンセプトを決め、見せ方にこだわる手法はぜひ真似したいものです。

日本各地それぞれはとても魅力的ですが、チーム日本として強いコンセプトが感じられない。サッカーで言うと、「個人技は光っているが、試合には決定力不足で負けた」そんな状態です。目指すは、「個人が光っていて、チームワークもいい。その結果、チームは勝利し、選手も海外チームから招聘された」そんな個と全の力の融合です。旅行博においては、場を作り、戦略を練り、オールジャパンの強さを持って、ビシっと!ジャパンキャンペーンしていきたいものです。


【14.02.15】ホテルマネジメント雑学ノート(Vol.80)

「せねば」と「したい」の間にある大きな溝

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   シェラトングランデ・トーキョーベイ・ホテル。学生は一人一人は粒ぞろい。
     大人や初めて出会う人にも意思を伝える訓練も就活の目的の一つ

 先週水曜日(2月12日)、「大学生のための人気ホテル見学会&会社説明会ツアー」という初の企画を試みました。45人の大学生が全国から集まり3つのホテルを巡ったのですが、そこでちょっと驚いたことがありました。
 学生がまるで意思表示しないのです。人事担当者や内定者に質問をしない。表情を窺っても何を考えているのか、何に感化されているのか、何に疑問を抱いているのかまるで読めないのです。目立つことや、それによって傷つくことを極度に恐れているのか、それとも感情表現することがかっこ悪いと思っているのか、彼らからは見えてこないのです。
 これはまずいです。就職活動や社会では、やりたい仕事をするためにアピールしていかなければならないのに、それをしないのはまずい。彼らを見ていると、まるで「私という逸材を発見して、待ってるから」と言っているかのようです。受け身、待ちのスタンス。こんなスタンスのままでは、やりたい仕事を自分から勝ち取っていくのではなく、与えられた仕事をただこなすだけの人生になります。つまり、自分がやりたいことができないで終わる人生になる。それに、気づかせたい。

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          野尻湖ホテル エルボスコの坂下雅行総支配人


 その翌日、宿屋塾がありました。アゴーラ・ホスピタリティーズが運営する野尻湖ホテル エルボスコの坂下雅行総支配人による「どうしたら生え抜きホテリエが総支配人になれるのか 〜プロフェッショナルホテルマネジャーのキャリアデザイン」という講演です。坂下さんは高校を卒業してホテル日航東京に就職、コンラッド東京を経て同社に入社し、36歳の若さでエルボスコの総支配人に就任しました。
 ご自身のキャリアパスを話される中で耳を疑うエピソードがありました。34歳のときに伊豆の旅館からエルボスコのファイナンシャルコントローラー(経理部長)に異動になった話です。そのとき、なんとPL(損益計算書)すら読めなかったと言います。ご本人曰く「ホテルマネジメントの教科書は売っていないけれど経理の教科書は本屋さんでいくらでも手に入りますので、それで勉強しました。その結果、財務諸表も眺めるだけで理解ができるようになり、『アメニティの費用がちょっと多いのはなぜかな?』という疑問も自然に抱けるようになりました」とのこと。
 私は、PLも分からないのに経理責任者を任せるという人事異動が信じられませんでした。講演後、アゴーラ・ホスピタリティーズの浅生亜也社長にお聞きしたところ、こんなエピソードを教えてくれました。
「坂ちゃんが入社して伊豆の旅館で副総支配人をしてもらっていたころ、二人でラーメンを食べたことがあったんです。そのとき、『坂ちゃんは、これからなにをしていきたい? どうなりたい?』と聞いたんです。すると彼は『総支配人になりたい』ってはっきり言ったんですね。その言葉に強い覚悟を感じたんですね。一つのホテルを統括するリーダーならまずお金の流れを把握することは不可欠な能力ですからFCをやってもらいました」

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 覚悟を決めて意思表示をする人なら知識や技術は後からついてくる。浅生社長はそれを信じたんですね。同社には「メンバーには大きい靴を履かせる」という哲学があります。ちょっとキャパオーバーでも意志や覚悟のある人にはどんどん仕事を任せて、仕事によって成長を促す。逆に、「これがやりたい」「こうなりたい」という意志や意見のない人は同社では難しいといいます。
 人から言われたから、仕事だからということで「せねば(I have to)」という仕事と、自分の内側から湧き上る「したい(I want to)」という気持ちでやる仕事には格段の差が生じます。アウトプットの質が違うから仕事を託す人も信頼して託せるし、なにより、仕事を義務としてやる人と、やりたいからやる人の人生には、その質がまるで違うと思うのです。
 とにかく何事も「こうしたい」という意志や思いが源泉です。そしてそれをきちんと語る。語って、周囲の人を巻き込んで実現させていくことです。熱い想いを持って熱くアピールする人に、人はチャンスを与えようとするし、人も集うのだと思います。








【14.02.03】新連載「日本のおもてなしは競争優位になるか 〜シンガポール×ホスピタリティビジネス〜」

第一回 「おもてなし」だけでは競争優位にならない


 今回から、新連載を開始します。
 シンガポール在住の臼杵沙織さんが綴るシンガポールから見た日本のホスピタリティ業界。
 下記は臼杵さんからのメッセージ。

 ホスピタリティとは、おもてなしの心、よいサービスなどと言われていますが、実はもっと深いもの。お互いの存在を認め合う対話のことを指します。
 これってマニュアルにはできないけれど、技として身につけることはできると思うのです。素敵なエピソードが紹介されている本はたくさんあるけれど、どうやってそれを自分の仕事や生活で実践したらいいか分からない…。それもそのはず、ホスピタリティの技術は身体知なので、文章では伝わりづらく、体系化されてないのが現状です。それに日本の生活の中で自然に行っている場合も多いので、意識もされません。さらにマナーや接客術のような自己研鑽だけでは、到達できない領域が広くあります。
 わたしはこれまでホテルで得たことやアジア地域における経営学を学んだ経験から、ホスピタリティを“再現性のある技術”として整理していこうと思っています。西洋のホスピタリティも素晴らしいけれど、日本やアジアのホスピタリティも面白い。多様な風土と文化に育まれた奥深い対話の術は企業経営にも役立つはず。
 一人の人間の技として、さらにチームで理想の結果を得る手段として、ホスピタリティマネジメントを広めていけたらと思っています。

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「日本には素晴らしい言葉があるね。“おもてなし”という素晴らしい文化が生きている」
 私が働いていた外資系ホテルの総支配人は、そう言って旅館のエッセンスをホテルの内装やサービスに取り入れました。外国人から見ても魅力的なこの「おもてなし」を旅館やホテル以外の場所で表現するのはとても難しいものです。単にハードを上質なものにし、丁寧な接客を行うだけではコストを増やすだけです。それをその企業の文化にまで根付かせつつ、一方では利益確保のための経営判断をしなくてはならないからです。
 2020東京オリンピックパラリンピックに向け「おもてなし」の機運は高まっていきますが、「心温まる接客」の舞台裏をどのように調えていったらよいか迷っている企業も多いのではないでしょうか。そしてそれを携えて海外に出て行くには何が足りないのか。日本とシンガポールのホスピタリティビジネスを比較しながら考えていきたいと思います。


1、生産性とイノベーション


 人は仕事中、その人の持てる能力の何%くらい使っているでしょうか。
 私の場合は、デスクワークのときで20%、ホテルの接客のときで40%くらいだった気がします。手を抜いていたのではなく、一生懸命に仕事をしていたのです。しかし「頭を使ってないなぁ」という時間が勤務時間の半分以上はありました。それに、本当はもっとこうしたいけど、システム上できない、立場上できない、あのマネージャーのときはできるけど、あの人と同じシフトのときはできない、ということもありました。

 日本の労働生産性は、OECD34カ国中19位(2011)。製造業のみだと6位なので、サービス業が足を引っ張っていると予想され、依然として米国の70%程度に留まっています。生産性を上げるには、分子のOutput(付加価値、生産量)を増やすか、分母のInput(労働者数×労働時間)を減らすしかありません。しかしサービス業の現実を見ると、どこも人手不足。これ以上人数を減らすなんてとんでもない状況です。では現状の人数で、Outputを増やしていくしかない。もしサービス業に従事する人が、まだ能力の半分程度しか仕事に使えていないとしたら、とてももったいないですね。もし残り半分の眠っている能力も使ってもらうことができたら、本人の意欲も高まり、組織の生産性も上がり、お互いの相乗効果でイノベーションが起きる可能性だってあるのです。

 日本のサービスの質の高さは日本人によって支えられてきました。これまではそれが当たり前でしたが、今後日本のサービスを輸出する際に日本人もセットで輸出するわけにはいきません。その場所にいる人を使ってサービスを行っていかねばなりません。現地の多様なバックグランドをもった人に「おもてなし」をしてもらえるように仕組みを作らねばならないと思います。ヒントはどこにあるでしょうか。

 日本以外の国では、仕事と階層が固定していることが多いと感じます。シンガポールのホテルの例で言うと、

オーナー  =華人系富裕層
マネージャー=欧米系知識層
現場サービス=現地、周辺国地域ミドルクラス
清掃や屋外での仕事(3K的分野)=現地、周辺国未習熟労働者

 この固定化された階層を超えて、アイディアを交換し、ディスカッションして仕事の向上が計られることはほとんどありません。意見を言う機会はあっても、要望が受理されるだけに留まり、それにより方針が変更されたり、企画が生まれることはなかなかありません。一方日本では、パートの清掃のおばちゃんでも、黒服のマネージャーでも、バイトの留学生でも、コミュケーションを取らないということはないでしょう。星野リゾートやホテルグリーンコアのように、お客様の最前線に立つ人間が経営会議で意見を述べ、直に接していない幹部層より発言権があるところもあります。これは欧米や他のアジアの国々にはない何よりのアドバンテージです。階層や部門を超えてコミュケーションを行い、パート勤務でも、マネージャーでも100%能力を発揮してもらうこと。平たく言うと、スタッフの「手」しか雇ってない状況から、「頭」も使ってもらうこと。「頭」と「口」しか使っていなかった人には「体」と「心」も使って仕事をしてもらうこと。こうしてスタッフに100%能力を発揮してもらい、生産性向上と新しいサービスへのイノベーションの足がかりを見つけること。これが日本のサービスが競争優位に立つための1つ目のステップだと思います。


2、イレギュラーを基本に

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 サービスを行うには何が必要でしょうか。主な要素は、ハード、ソフト、ファンクションです。「機械や建物」を「機能」させるのが「人間」の役割という関係です。しかしいつのまにか、機械や機能に人間が「使われて」いないでしょうか。そういう視点で身の回りを見渡してみると、本末転倒になっていることが沢山あることに気がつきます。

「朝食セットのポテトをほうれんそうにできますか」
 朝食の忙しいときにそんなことできない。
「東京駅が使えないなら品川で新幹線を折り返せばいいのに」
 品川駅はそういう構造になっておりません。
「このネイルデザインで、色だけ変えたいんですけど」
 このメニューだとできないですねー。

 そうですよねーと笑って諦めてしまう、あなたや私が今日も日本のどこか(特に東京)にいないでしょうか。

 確かにいちいちイレギュラーに対応するには人も時間もかかるし、その対応している間に通常業務がおろそかになってしまうこともあるかもしれない。しかし、もしイレギュラーが多いなら、そもそもその基本設定が間違っていたということです。基本設定と運用オペレーションを更新すればいいだけのことです。そしてやってみたら意外と簡単で、「これくらいいつでも出来るのだから早く言ってよ〜」と得意になったりするのです。つまり、「物理的にできないからやれない」のではなく、「組織の命令だったらやるけど、責任取りたくないから自分の判断ではやりたくない」という心理が、日本のサービスを融通のきかないものにしてしまっているのです。

 シンガポールに引っ越したばかりの頃、無印良品のオンラインカタログを見て、欲しい本棚がありました。日本版のカタログにはあるが、シンガポール版のカタログにはない。ダメもとで日本無印とシンガポール無印のお客様センターにそれぞれメールしてみました。日本版のカタログにしか載っていない本棚買えますか?3日後にまず日本から返信が来ました。

 お問い合わせ誠にありがとうございます。
 あいにくですがご希望の商品は日本のみでのお取り扱いになります。
 また、シンガポールへ配送することもできません。
 お問い合わせいただきましたのに心苦しいのですが何卒ご了承くださいますようお願いいたします。
 これからも無印良品をご愛顧くださいますようお願い申し上げます。

 仕方ないとあきらめていました。
 それから2日後、今度はこんな内容のメールがシンガポール無印から届きました。

 喜びを込めて返信いたします。
 お問い合わせいただきました本棚は下記の商品で間違いありませんでしょうか。
 こちらは本来日本のみのお取り扱いではございますが、幸い私どもでお取り寄せさせていただくことができます。
 まずは代金の半額を店舗でお支払いの上、ご注文ください。商品がシンガポールに到着しましたら、ご連絡差し上げますので、残りの半額のお支払いとお届け日のご連絡をお願いします。ご注文いただいてから2ヶ月程度でお届けできます。なお3000ドル以上のお買い上げで10%オフ、500ドル以上で送料無料となります。本件に関して更に詳しくご相談されたい場合はいつでもご連絡ください。お返事お待ちしております。

 この2つの対応の違いをどう感じるでしょうか。
 買いたいと言っているのに売りたくないという日本のカスタマーセンター。相談を受け止め、情報があれば提供する、という業務内容なのでしょう。一方、東南アジア人の勤務態度はダラダラしているように見えますが、基本はおせっかいで出来ることなら手伝ってくれようとします。その人間らしい振る舞いが勤務中も続いている。日本人の方が勤務態度はまじめに見えるけれど、心もあの通勤電車に乗っているときに硬直してしまうように思います。そして会社の入り口につく頃には、挨拶しなきゃと考えなければ挨拶できないほどに固まっています(その満員電車を世界に売ろうとするのだからちょっと笑ってしまいます。)

 日本のサービス業の中でもこのように、アジア人のなんでもやってあげようとする気質をちゃんとサービスに組み込めている場合は評判がよく、逆に日本のサービスの型を押し付けているところは評判がよくないようです。

 サービス業は毎日イレギュラーが起きるもの。
現場の人が自信と責任をもって柔軟に対応できる仕組みになっているでしょうか。
「イレギュラーが起きる」ということを前提にオペレーションを組み、それとリンクした人的管理とマーケティングを統合して行うこと。何より、日々の変化を楽しむ余裕を、現場や会議で持てるようにする。これが硬直した日本のサービス業が取り組むべき2つ目の課題だと感じます。

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3、サービスとホスピタリティを区別すること

             台湾の加賀屋で和服を着て働く台湾人のスタッフ


 社内に文化を作るときにまずやるべきこと。それは社員同士で使う言葉の意味を統一することだそうです。例えば、「整理整頓」という言葉。倉庫やロッカールームによく張ってありますね。具体的には何をすることでしょうか。そしてその言葉のイメージは隣の人と同じでしょうか。日産ではゴーンさんにより、整理=定位置に戻すこと、整頓=不要なものを捨てること、と決められているそうです。具体的に何をすればよいか誰の目にも明らかですね。

 ではサービス業でよく使われる、サービスやホスピタリティといった言葉の意味を社内で考えてみたことはあるでしょうか。私はこう解釈しています。

 サービスは、効率的に沢山の人に対して同じものを提供すること。
 ホスピタリティは、相手に配慮した対応の結果、満足や調和が生まれること。

 この二つを同じ場所で行おうとすると、現場は身動きがとれなくなります。
 お客様満足度が大事と言いながら、現実には売上目標が優先されている。
 人件費を下げろと言いながら、お客様に丁寧に接しましょうと言われる。
 ムリです。

 そして混合されるとやってくるお客様も、この店や商品に何を求めていいか分からなくなり、結局どちらのメリットも感じずに去ってしまいます。

 これらの言葉の意味を明確にし、区別して使うと、企業としてクリアなメッセージを発信し、ブランドが確立され、顧客に安定したイメージを持ってもらうことができます。

 例えば加賀屋。厨房から各部屋まで食事の配送は独自開発の全自動のベルトコンベアで行われます。客室数200を超える部屋へ人間が運ぶのは非効率だし、冷めたりぬるくなったりすることを防ぐことができます。最終的にはコンベア出口からお部屋へは仲居さんが運びます。人と接するところはホスピタリティで、見ないところはサービスで、と明確に区別した事例です。

 逆もあります。アップル社の製品は、開発の段階で徹底的に人が欲しがり、使い勝手がいいように作り込まれる、ホスピタリティデザインです。その後の製造とマーケティング販売はグローバルで行い、一部のコアなファンに向けてはストアでホスピタリティ溢れる接客をする。ビジネスの各段階でサービスとホスピタリティを明確に分けた例です。

 サービスとホスピタリティ。どっちが優れているといった問題ではなく、社内でそれぞれが定義され、それに基づいて行動できるようになっているか、自分のビジネスにおいてはどこに何を効かせるのがよいか、見えているが最大の問題なのです。

 日本のサービスやおもてなしは競争優位になるのか。
 潜在的にはイエスですが現状ではノーです。
 人の力を引き出す仕組みを作り、硬直したサービスを見直し、キーワードを整理してビジネスプロセスごとの強みに生かすこと。少なくともこれらの課題に取り組む必要がありそうです。


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●臼杵沙織(うすきさおり)さんのプロフィール
 1984年生まれ、福岡出身。ホスピタリティコンサルタント
 立命館アジア太平洋大学アジア太平洋マネジメント学部卒業、アジア投資戦略専攻。在学中に留学生の人材バンクを起業し、通訳や語学教師として派遣する事業を行う。メーカーの石油調達部門に勤務した後、ザ・ペニンシュラ東京のロビーラウンジでサービスを担当。スタッフやゲストの魅力を引き出すことに喜びを感じる。その後、マンダリンオリエンタル東京人事部にて従業員満足向上、新人研修などを担当し、6つ星のサービスを裏から支える。出産を機に退職。育休中に東京YMCA国際ホテル専門学校にて就職準備講座を行う。昨年10月よりシンガポール在住。日本ホスピタリティ推進協会認定ホスピタリティコーディネーター。


【14.01.20】ホテルマネジメント雑学ノート(Vol.79)

選ばれるために「Value」ではなく「Worth」を築く


 ここのところ、「日本のホテル企業の競争優位性ってなんだろうか」ということを考えています。例えば、アジアの新興国の不動産デベロッパーや投資家がホテルを建設するにあたり、「さて、運営をどのホテル企業に委託しようか」というときに選ばれるためにはどんな優位性が日本発のホテル運営企業にあるのかという疑問です。
 先日(1月17日)に開催した宿屋塾「旅館入門講座」は、そうした疑問を考える目的もあって開講いたしました。日本古来の宿文化、宿泊業のルーツを探り、形や心を知ることで、日本の宿泊ビジネスの国際競争優位性を知れるかもしれないと考えたのでした。
 講師としてご講演いただいたのは松坂健氏です。私の古巣であるオータパブリケイションズの『HOTERES』誌と双璧をなす業界誌である『月刊 ホテル旅館』の編集長を10年間された有名なジャーナリストであり、現在は西武文理大学で教授をされている尊敬すべき私の大先輩です。
 講義は、二時間たっぷり「ホテルと旅館の違い」を解説されました。対比できる部分が非常に多いことに驚かされました。下記に列挙します。
 ホテルは多様な人が集まる「DRY」な「人間模様」であり、旅館は行くまでの動機が濃い「WET」な「人間の縮図」。ホテルは非日常の「ドレスアップ」の「緊張感」、旅館は脱いで浴衣に着替える「ドレスダウン」の「リラックス感」。ホテルの発祥は十字軍の遠征における「修道院(ホステル)」であり、旅館は平安朝期の旅人の救護を目的とした密教寺院が運営する「布施屋」。ここは、どちらも「困った人を助ける」「放っておけない」という気持ち(=ホスピタリティ)が原点。ホテルのサービスは、「May I help you?」(なにかご要望はありますか?)であり、旅館は「Let me help you」(私にお世話させてください)。ホテルはお客さんから申し出ないと基本的にはなにもしないけれど、旅館は配慮を効かせて世話を焼く(リッツ・カールトンやアマンリゾートは、旅館のマインドをシステム化した)。ホテルはファザーシップ(父親的、上下関係)であり、旅館はマザーシップ(母親的、Side by Side」の接客。ホテルは「ゾーンディフェンス」(部署ごとに違う人が接客する)でゲストはサービスをリレーされ、旅館は一人の仲居さんがチェックインからアウトまでを担当する。ホテルの価値提供は「機能」に重点が置かれ、旅館は「情緒」に重点が置かれる。
 そして、旅館の魅力は、「浴衣(みんな平等、リラックス)」「温泉(自然との一体化、静けさ)」「おかみさん(マザーシップの最たるもの)」の三点セットだといいます。


 ルーツや本質的なことを掘り下げると、ホテルと旅館はここまで違うのですね。旅館のこういった部分は他国にはない日本独自の文化や特性であることも多いと思いますので、差異化を創れる要素です。
「こうした部分を競争優位性にするビジネスモデルを創ったらいいのではないか」。そう思うのは早計だと松坂先生はおっしゃいます。そもそも、「ビジネスモデル」という物言いが違うのだと言います。それはなぜか。
 旅館の存在、価値というのは、「Value」ではなく「Worth」だからです。「Value」と「Worth」の違いは下記の表のとおりですが、「Worth」とは唯一無二なものであり、「成功した他旅館でのビジネスモデル」がそのまま通用することはないと言います。比較の上で生まれる相対的価値である「Value」ではなく、比較できない絶対的な価値である「Worth」という価値を持つ旅館は、そもそも競争に巻き込まれない。よって競争優位性なんかも考えなくてもいいのです。選んでくれる顧客を大事にし、顧客を裏切らなければそれでいいのです。「競争しているうちはイノベーションなど起こりえない。誰も気づいていないかけがえのない価値を創るのが究極の事業家の役目だと思う」と先生は言います。



 松坂先生も私も尊敬するある旅館の主人は、露天風呂を創ることを後継者と最後の最後まで論争したといいますが、その主人は「新しく露天風呂ができた、という話題性だけでやってくるようなお客さんは、うちにとって生涯にわたる顧客にならない」と判断したのです。「選ばれる」には「選ぶ」ことです。そのために「誰かに嫌われること」を恐れてはいけない。その覚悟が経営者には必要なのだと私は思います。

「Worth」を築き上げること。
 ここに、これからの日本のホテルのあるべき姿の一つの形がありそうです。
 そのヒントとして、先生は二つ教えてくれました。一つは、「湯布院の中谷健太郎さん(亀の井別荘の主人)のような人の存在」。「泊まりに来たいではなく、この人に会いに来たい」と言う人の存在。それこそ「Worth」そのものです。
もう一つが「糠床(ぬかどこ)」の存在。代々受け継がれてきた自前の糠床を大事にして、その糠床で漬けた沢庵を出す。糠床は比喩としてここで紹介しましたが、これも大きな「Worth」です。


【14.01.07】ホテルマネジメント雑学ノート(Vol.78)

宿屋大学の2014年はいかに!?


 新年あけましておめでとうございます。
 本年も、宿屋大学をよろしくお願いします。

 2014年初の雑学ノートは、新年の抱負を述べたいと思います。
 お蔭さまで宿屋大学も今年4月で起業して五期目を迎えます。近視眼的に(というか中長期戦略を遂行する暇なく)業界の皆さまのニーズに応え、依頼を頂く仕事(雑誌取材や書籍の編集や執筆、講師、調査研究など)をありがたくお引き受けしているうちに、徐々にではありますが事業規模は膨らんでおります。ウェブサイトの訪問者も、先日久しぶりに調べてみましたら一日平均1200人が見に来られているようでした。一年ほど前は500人ほどでしたのでずいぶん増えたようです。そして、宿屋大学の講座プログラムも毎回多くの方がご参加いただき、集客に苦労するということがだいぶ少なくなってきました。

 筋金入りのプロフェッショナルホテルマネジャーを育成したいというのが宿屋大学のミッションです。よって現役ホテルマネジャーの応援がコアビジネスですが、今年は、さらに「ホテル就職志望者就職活動支援」と「ホテル・旅館経営者支援」にも力を入れていきたいと思います。
 ホテル就職志望者就職活動支援は、そもそも私、近藤がこの仕事に至る原点です。1996年に『ホテル業界就職ガイド』を企画・制作したことをきっかけに、ホテル志望の学生の支援をするようになり、それ以来20年近く多くの学生の就職活動を応援し、ホテル業界に送り込んできました。その彼らの人生を支援することが宿屋大学の発端でした。今年は、原点回帰ではありませんが就活生支援として、イベントを二つ主催します。

【ホテル就活支援】
「大学生のための人気ホテル見学会&バスツアー」
 2014年2月12日(水)
 http://yadoyadaigaku.com/program/rct1301.html

「大学生のためのホテル業界就職講座」
 2014年3月3日(月)・4日(火)2日間
 http://yadoyadaigaku.com/program/rct1302.html


 もう一つが経営者支援です。宿屋大学の講座プログラムを受講される方のなかに、独立系ビジネスホテルのオーナーや経営者、旅館の経営者や女将さんが増えてきました。そうした方との交流も増えました。その支援の手法として、一つは、ホテルグリーンコアと共同で昨年から開講している「ホテルイノベーション研究会」です。この第二回を7月からスタートさせます。
 もう一つは、ホテル・旅館業界をサポートするコンサルティング企業のなかで、誠実で実力のある企業だけをグルーピングしてコンソーシアムを立ち上げます。真摯にホテル・旅館業界の向上を目指す結成舎です。こちらは2月に発表します。

 最後になりましたが、宿屋大学のメインであるプロフェッショナルホテルマネジャーの育成ですが、昨年度一年間、間を置いたプロフェッショナルホテルマネジャー養成講座を再スタートさせます。こちらも6月に開講します。コンテンツの変更はあまりありませんが、スタンスを、「体系的なセミナーシリーズ」ではなく、「人材育成のプラットフォーム」として取り組みたいと思っています。
 そのほか、コレリィアンドアトラクト社の松本慶大社長のシリーズ講座「ネットマーケティングマスター講座」や、新企画であるC&RM社の小林武嗣社長によるシリーズ講座「レベニュー・マネジメント&CRM講座」も企画しています。
 さらに、大好評の石丸雄嗣氏の「ホスピタリティ・ロジック講座」は、実践編と論理編をセットで全国行脚したいと思っています(4月5日@大阪は決定しております)。
  DVD も20本は新たに発売したいと思っています。

 2014年の宿屋大学、よろしくお願い申し上げます。

 告知ページが出来上がっているものは下記のとおりです。
 このほか、高野登氏講演会、アゴーラホスピタリティーズの坂下雅行総支配人の講演会、日本ホテルアプレイザルの北村剛史氏による「オペレーティングアセットとしてのホテルの価値の高め方(仮題)」などの宿屋塾講座も予定しています。

●2014年1月9日(木)19:00〜21:00
【宿屋塾】「ホテル・旅館のための写真撮影入門講座
                〜写真の腕が格段に上がる簡単テクニック」
                   講師:カメラマン 丸田歩氏
          http://yadoyadaigaku.com/program/JK1317.html

●2014年1月15日(水)19:00〜21:00
【入門講座】「レベニュー・マネジメント入門講座」
          講師: C&RM株式会社 代表取締役社長 小林武嗣 氏
          http://yadoyadaigaku.com/program/PP1305.html

●2014年1月17日(金)19:00〜21:00
【宿屋塾】「旅館入門講座 〜21世紀型ビジネスとしての旅館業」
  講師:松坂 健氏(元・月刊『ホテル旅館』編集長、西武文理大学経営学部教授)
          http://yadoyadaigaku.com/program/JK1318.html

●2014年1月22日(水)19:00〜21:00
【宿屋塾】「鞄一つで世界を渡り歩く『プロフェッショナルホテルマネジャー』を目指そう」
  講師:株式会社KPG Hotel & Resort Cluster General Manager 田中正男氏
          http://yadoyadaigaku.com/program/JK1322.html

●2014年1月28日(火)19:00〜21:00
【宿屋塾】「ホテルの接客英語 〜宿泊部門・料飲部門の接客基本フレーズ」
  講師:英語大学
          http://yadoyadaigaku.com/program/JK1321.html

●2014年2月6日(木)19:00〜21:00
【宿屋塾】「2020年東京オリンピックにおけるホテル事情
                  〜6年後の大予想と対策」
 講師:ジョーンズ ラング ラサール ホテルズ&ホスピタリティグループ  沢柳知彦氏
          http://yadoyadaigaku.com/program/JK1320.html

●2014年2月25日(火)・26日(水)
【特別企画】「宿屋大学@別府温泉 with 人気講師4人」
          http://yadoyadaigaku.com/program/JK1319.html














【13.12.23】ホテルマネジメント雑学ノート(Vol.77)

心と心の触れ合いが付加価値として見直される時代

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 先週末の土日、静岡県浜松市の柳原新聞店を訪問しました。
 柳原新聞店は創業1960年、社員110人、10の営業所を持つ新聞配達店。単に新聞を届ける新聞配達に留まらず、何千とある顧客に個別対応して新聞を配達したり、地域の方とのつながりを深めるためのイベントを定期的に開催したりして、顧客と心と心でつながることで長期的なお付き合い、長期安定経営を実現しています。自社のビジネススタンスを「生活情報サービス業」として、「心でとどける。心をむすぶ」を企業理念、コンセプトにしています。現在では、カルチャースクールや地元野菜の宅配、オリジナル情報誌の発行なども行っています。顧客満足を重視すること、社員を大事にする経営の手本として、多くのマスコミが取り上げている、ちょっとした有名企業です。
 その柳原新聞店がこの時期に毎年行なっているクリスマスの恒例行事をホテルグリーンコアの社員の方が見学されるという話を聞き、私も同行させてもらうことにしたのです。現在、同ホテルの取り組みを綴る書籍の第二弾を執筆中ですが、キーパーソン二人に密着取材でき、彼らの目に柳原新聞店がどう映り、どのように参考にするのかを間近で見れることは私にとってとても有意義であろうと判断しました。
 現地に到着すると、見学だけではなく、社員の方々と一緒に仕事をさせてもらいました。サンタクロースの格好でお菓子や、両親から託されたプレゼントを子供たちに届け、クリスマスイベントの運営をお手伝いしました。

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 私もサンタクロースになってプレゼントを子供たちに渡したり、イベントでチョコバナナを販売したりしながら、柳原新聞店の社員の方々とじっくり話をさせていただきましたが、目の当たりにした同店の取り組みのすごさは事前情報以上で、心を打たれることばかりでした。
 配達員の方(ほぼ全員正社員です)は、一日300軒を回るそうですが、約半数の顧客と顔見知りです。毎朝会う一人暮らしの年配者が見えないと、気になって家の中を確認し、倒れているのを発見し、命を救ったことが何度もあるそうです。ノブに刺さったままの鍵をお届けしたことや、自殺しそうな人を思い留めさせたこと、足の不自由な方の代わりに夕飯の材料を買ってきてあげたこと、切れた電球を取り換えてあげたこと、台風でぐちゃぐちゃになった庭を三人がかりで元通りにしてあげたことなどなど、同店の配達員が業務以外のことで地域の方に貢献した話は数えきれません。
 配り方も個別(戸別)対応しています。あるお宅は新聞をドアのポストから落とします。あるお宅は、斜めに差して風が入り込まないようにします。あるお宅はチラシを抜きます。あるお客はエリア外のチラシも欲しいというのでそれも入れて差し上げます。あるお宅は、雨の日でもビニール袋不要です。こうした要望にすべてお答えしているのです。
 お客さまからも、「いつもオートバイを遠くに停めて、そこからわざわざ歩いて届けてくれる気遣いが嬉しいです」、「毎朝5時過ぎ、ドアのポストから新聞を入れていただきますが、その丁寧な差し込み方に愛情を感じます。ありがとう」といった声が届きます。


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 もちろん、柳原新聞店も購読客獲得のための営業はしています。でも、新聞営業にありがちな「モノの提供」は一切していません。洗剤やプロ野球観戦チケットといったモノを渡さないポリシーを貫いています。その代り、個別対応のサービス、心と心で長く繋がるという安心感という付加価値を提供しているのです。
 柳原新聞店が届けているのは「新聞」ではないのです。心と心の触れ合いという価値、都市化が進み、商店街が消え、地域と人たちとの接点を持ちにくくなった時代において、誰かが誰かを見守っているという安心感をお届けしている。少し大げさに言えば、バイクに乗せて新聞を届けているのではなく、新聞に乗せて心を届けているのです。
 スターバックスコーヒーのコンセプト(本質的な顧客価値)がコーヒー販売ではなく、「サードプレイス(第三の場所)」であることは有名ですが、柳原新聞店にも同じことが言えます。柳原新聞店のコンセプト(本質的な顧客価値)は、「心をむすぶ」なのです。浜松における情報のハブになって地域の方々の心と心をむすんでいる。これが事業の本質です。
 柳原一貴社長に、「新聞が世の中から消えても、きっと御社は繁栄するでしょうね」と質問したら、その通りですという答えでした。
 サービス業において、効率化という努力は間違いなく大事な努力です。でも、それによって、サービス業の本質的な顧客価値である「心と心の触れ合い」を忘れてしまうのは、本末転倒と言えるのではないでしょうか。
 これからは、効率化によるコスト優位性で勝負する企業よりも、柳原新聞店やホテルグリーンコアのような一見非合理な「心でつながる」付加価値を大切にする企業が尊ばれる時代になると思います。

●柳原新聞店
  http://www.mai-ca.net/about/index.php


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