【22.07.18】ホテルマネジメント雑学ノート(Vol.108)「100宿チャレンジ中間まとめ」



今年の正月、下記のような目標を立てて公言しました。

【今年の目標「100宿チャレンジ」】
新年の目標というものを例年は持たないのですが、今年は、ひとつチャレンジしてみようと思っていることがあります。「一年間で100の宿に泊まり、そこでの教訓をSNSでシェアをする」。ホテルの経営者やマネジャーのご支援を業としている私にとって、自身の価値を高める手段のひとつが「優れたホテル・旅館を観て、出来る限り引き出しを増やすこと」だと考えています。例年、意識しなくても50〜70施設ほどステイさせていただいていますが、今年は、意識して「違う宿」に宿泊し、そこで知った宿経営にとっての素晴らしい取り組み、教訓をシェアするということにチャレンジしようと考えました。

宿屋大学としての投資、個人としての自己投資であり、言うなれば「自由研究」ですが、同時に業界の皆様への情報提供や、宿経営を考えるヒントにもなればとの思いで実行しています。6月までの半年間でちょうど60宿にステイしましたし、今年下半期のスケジュール表を見ても100軒という数字はほぼ間違いなく達成できます。ですが、<教訓を書き分ける>という課題が、私にとってはとてもいい修業になっています。

訪問する宿を選ぶ基準は次の3つ。

@コンセプトや在り方がユニークで、教訓がありそうなところ(泊まる前から「教訓」はこれを書こうと決めて予約することもあります)

A知り合いや、一緒に学んだ仲間(宿屋大学や東京YMCA国際ホテル専門学校や立教大学などで)が活躍する宿

B取材や研修でお邪魔する宿

ということで、いったんここで半分の50をまとめるページをつくってみました。




1宿 @ホテルミクラス(静岡・熱海)
<教訓>「点ではなく面でのおもてなし」

2宿 @某高級旅館(静岡・熱海)
<教訓>「思い出に残る旅の一夜を創る」ことに誠実ですか?

3宿 @フレイザースイート赤坂東京(東京・赤坂)
<教訓>「分かってますよ〜」は、やっぱり嬉しい。

4宿 @ホテルグリーンコア幸手本館(埼玉・幸手)
<教訓>「ホテルの意味を書き換えて新しい価値を創造する」

5宿 @ホテル ザ セレスティン銀座(東京・銀座)
<教訓>「ゲストから見たら、レストランもフロントも、同じホテルのなかの一機能」

6宿 @ホテル美やま(埼玉・秩父)
<教訓>「カルチャーセンターとしてのホテル」

7宿 @底倉の湯つたや旅館(神奈川・箱根)
<教訓>「コンセプトは短いほどよい!」

8宿 @強羅花扇(神奈川・箱根)
<教訓>「質を犠牲にしてまで数を追わない」

9宿 @BYAKU Narai(長野・塩尻)
<教訓> 「地域を敬い、そのままが<伝わる>お手伝い」

10宿 @TWIN-LINE HOTEL KARUIZAWA(長野・軽井沢)
<教訓> @「レジスターカードの印字は嬉しい」 A「創る人と育てる人の想いを合わせる」





11宿 @ふふ河口湖(山梨・河口湖)
<教訓> 「徹底的な質へのこだわり」が貫かれるということ

12宿 @日本青年館ホテル(東京・神宮)
<教訓> @「研修ホテル」という在り方  Aプラスの「期待不一致」

13宿 @オリエンタルホテル京都六条 by HMJ (京都)
<教訓>「ホテルは地域の上にたっている」

14宿 @ホテルインターゲート京都 四条新町 (京都)
<教訓>「ホテルの使命は<翌日の活力>の提供」

15宿 @名古屋ビーズホテル (愛知・名古屋)
<教訓> 「泊まると楽しい大人のワンダーランド」

16宿 @水明館(岐阜・下呂温泉)
<教訓> 「観光促進は、宿が主導で!」

17宿 @hotel around TAKAYAMA(岐阜・高山)
<教訓> 「ホテルが提供すべきは体験価値」

18宿 @LINNAS Kanazawa(石川・金沢)
<教訓> 「HUBとしてのホテル」

19宿 @ ハイアット セントリック 金沢(石川・金沢)
<教訓> SDGsの取り組み

20宿 @ HOTEL NUPKA(北海道・帯広)
<教訓> @ホテルが街を変えていく A ゲストとスタッフの心と心がつながる瞬間






21宿 @ カミシホロホテル(北海道・上士幌)
<教訓>「先端技術の利活用」

22宿 @ UNWIND HOTEL& BAR 札幌(北海道・札幌)
<教訓>「カスタマージャーニーの設計」

23宿 @ 界ポロト(北海道・白老)
<教訓>「宿はメディア。地域と旅人をつなぐ情報発信媒体」

24宿 @ 丸駒温泉旅館(北海道・支笏湖)
<教訓>「思い出作りのお手伝い」

25宿 @ 伊豆・稲取温泉 食べるお宿 浜の湯(静岡・稲取)
<教訓> 接客は与えるものではなく「共創」するもの

26宿 @ 日本平ホテル(静岡)
<教訓>「景色の見え方を演出する」

27宿 @ soki atami(静岡・熱海)
<教訓>「湯治文化を現代に翻訳するということ」

28宿 @ toggle hotel(東京・水道橋)
<教訓> ペルソナとディマンドを合わせる

29宿 @ 庭のホテル 東京(東京・水道橋)
<教訓> フュージョンは美しい 〜令和版「和洋折衷ホテル」という在り方

30宿 @ 湯の山 素粋居(三重・菰野)
<教訓> 感性を磨く場所としてのホテル






31宿 @ 三井ガーデンホテル神宮外苑の杜プレミア(東京・神宮外苑)
<教訓> レストランテナントの質の高さを維持する努力

32宿 @ 里海邸 金波楼本邸(茨城・大洗)
〈教訓〉「ゲストにも、たしなみを求める」ということ

33宿 @ 強羅花扇 円かの杜(神奈川・箱根)
〈教訓〉「<上質な空気感>と<快適さ>を創る8のポイント」

34宿 @ 東京YMCA山中湖センター(山梨・山中湖)
〈教訓〉「型の考察」

35宿 @ the Hotel FUJIYAMA(山梨・山中湖)
〈教訓〉「生き方が反映されるホテル」

36宿 @ 御宿 野々 浅草(東京・浅草)
〈教訓〉「痒い所に手が届く」

37宿 @ ONSEN Ryokan 由縁 新宿(東京・新宿)
〈教訓〉 「創る」と「育てる」が繋がっているということ

38宿 @all day place shibuya(東京・渋谷)
〈教訓〉「個性や強みを発揮して、やりたいことができる会社」

39宿 @ SORANO HOTEL(東京・立川)
〈教訓〉「文化を創り、街を変えるホテルの力」

40宿 @ ヴィラフォンテーヌグランド東京有明(東京・有明)
〈教訓〉「オペレーションで不動産の価値を高められるのがホテルビジネスの面白さ」




41宿 @ HOTEL TAVINOS ASAKUSA(東京・浅草)
〈教訓〉「削ると、とんがる」

42宿 @ エスティネートホテル 那覇(沖縄・那覇)
〈教訓〉「自分の居場所と感じることができるホテル」

43宿 @ ホテルパームロイヤルnaha国際通り(沖縄・那覇)
〈教訓〉「サービスプロフィットチェーンを回せ!」

44宿 @ HIYORIオーシャンリゾート沖縄(沖縄・恩納村)
〈教訓〉「分譲コンドミニアムホテルという在り方」

45宿 @ OMO3東京赤坂by星野リゾート(東京・赤坂)
〈教訓〉「戦略とは、自社の強みを市場のどこにぶつけるかを決めること」

46宿 @ ラビスタ東京ベイ(東京・豊洲)
〈教訓〉「出張が待ち遠しくなるほど楽しい宿泊主体温泉アーバンリゾート」

47宿 @ the b お茶の水(東京・御茶ノ水)
〈教訓〉「<宿泊>というフレームを外して考える」

48宿 @ Minn浅草(東京・浅草)
〈教訓〉「ホテルDX」

49宿 @ ホテル一宮シーサイドオーツカ(千葉・一宮)
〈教訓〉「社員のモチベーションに火をつける」

50宿 @ 鴨川館(千葉・鴨川)
〈教訓〉「逆張り経営」


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【22.07.01】ホテルマネジメント雑学ノート(Vol.107)「満室は<成功>ではなく、<失敗>である。」



前職の出版社時代、もう20年以上前の話です。当時、中谷彰宏さんに書いていただいた『ホテル王になろう』という本がものすごい勢いで売れていました。ホテル志望学生が集まる「ホテル業界就職セミナー(現・ホテル業界合同企業説明会)」の会場でも販売しまた。すると、飛ぶように売れて100冊がすぐに完売したのです。私は得意になって太田進社長に「社長、ホテル王、100冊売れました! 完売しました!!」と伝えました。褒めてくれると思ったのです。が、社長の返答は意外でした。

「なんで、もっと持っていかなかったんだ!」

つまり、150冊くらい持っていけば、もっと売れたのに、お前は機会損失したんだよ、という意味でした。私は素直にこの叱責に納得しました。


単価を上げると店もお客も幸せになる!?



先日、那覇出張の際に、国際通りから少し入ったところにある沖縄料理の食堂でランチをとりました。そこはとても人気のある食堂で、昼も並ぶし、夜は行列が毎日できるそうです。メニューを見てびっくりしました。「沖縄そば」や「フーちゃんぷるー」などをメインとして4品ついてくる定食が、なんと660円! 激安です。観光客の来店も多いですが、地元のお客さんも来る店なので、地元民価格を維持したいという意向があるのは理解できますが、個人的に感じたのは、「単価上げればいいのに・・・」ということでした。単価を1.5倍にしても、少し減るとは思いますが、お客さんは十分来ると思います。そうすれば、お客さんを待たせることは減るでしょうし、スタッフも落ち着いて調理できるし、接客できる(昨日のランチ時は、カオスような慌ただしさでした)。



「売り切れ」は、失敗。



翻って、ホテルの話。最近、ネットでいろんなホテル業界の識者が訴えているように、「稼働よりも単価重視策」で行くべきだと私も感じます。STRの櫻井さんも、「2019年の時点で『稼働率が60%台で高い方』というのが全世界的なスタンダードであり、日本のように国全体で80%を超える稼働率というのはかなり高い」と言っています。

「満室」は、レベニューマネジメントの成功ではなく、失敗と考えた方がいいのではないでしょうか。20年前に太田社長が私に示してくれたように「売り切れ」は、失敗と考えるのです。

100室のホテルを8,000円で売って満室にすると売り上げは、80万円です。一方、単価を1万円に設定し、結果20室売れ残ったとしても、売り上げは同じ80万円です。でも、コストは前者の方がかかってしまうので、GOPは後者の方が高くなるのです。

しかも、いまはオペレーションするスタッフ不足です。それにモノの値段が上がっている昨今です。経費は徐々に増えていきます。

ポストコロナの時代は、「単価とクオリティを高めて利益を残す」という方向性が、あるべきスタイルではないでしょうか。そして、利益が残ったらスタッフに還元してください。



選ばれたい人から選ばれ、選んでほしくない人から選ばれない



今年私は、自己投資として、ホテルや旅館を意識的に泊まるようにしています。1〜6月の半年間でちょうど60軒泊まりました。そこで気付いたのは、「コンセプトが明確・明快な宿は、それを選ぶ客層は同じような人が集う」ということ。

選ばれたい人から選んでもらい、選んでほしくない人からは選ばれない。こんな最適なマーケティングが、コンセプトを際立たせることによって、成立する。世界観、好みの合う人たちと、空間と時間を共創していくホテルづくりができる。結果、ファンになったお客さんがまた、世界観、好みの合う人を連れて来てくれる。常連さん、贔屓客がどんどん増える。そういう顧客は、価格の魅力(=リーズナブル)ではなく、好みで選ぶので価格に頓着しない。

そんな顧客と、数多く繋がっている宿は、単価を上げても客数は減らないでしょうし、無理して満室を目指す必要はなくなるのだと思うのです。


※写真はすべてイメージです。本文との関係はありません。


【22.04.25】ホテルマネジメント雑学ノート(Vol.106)「すぐに、HOWに行かない」

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4月16日から、第11回「プロフェッショナルホテルマネジャー養成講座(PHM)」が始まりました。北は北海道・紋別、南は沖縄・那覇から精鋭が集いました。

PHMでは、冒頭<DAY1>で、「ロジカルシンキング」というセッションを行ないます。論理思考の訓練です。今後、人材マネジメント、マーケティング、会計・財務といったテーマが続きますが、すべてをこの論理思考で捉え、議論していくためです。

ロジカルシンキングとは、右脳ではなく左脳を働かせるということです。これまで右脳(勘と経験)で判断してきた人が、左脳(論理思考)で判断することは、右利きの人が左手で箸を使うくらい大変なことだと思います。だから訓練が必要です。

私も、学生時代はバックパッカーが長かったので、瞬間的に右脳で物事を判断するくせが付いてしまいました。ブルースリー(「Don't think! Feel.(考えるな!感じろ)」)ではないですが、論理思考、戦略思考ができなくて、その場その場で勘と経験と度胸で世の中を渡ってきた。

ホテルパーソンも、瞬間的に判断して、目の前のお客さまに対応する仕事なので、右脳が発達し、その結果、左脳が発達しないということが起こるのだと思います。しかし、サービスマンは百歩譲ってそれで問題ないかもしれませんが、経営者やマネジャーは、物事を論理的にとらえ、判断していくスキルが大事です。

ロジカルシンキング(論理思考)の大前提は、「<問い>から考える」です。「<正解>を導き出す」まえに、熟考を重ねて適切な<問い>を設定することです。この<問い>の設定が間違っていたら、当然、その<解>も間違います。間違った打ち手を打つ結果になる。



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宿屋大学では、その思考を「<WHAT>⇒<WHERE>⇒<WHY>⇒<HOW>」のステップ(フレームワーク)で訓練します。

<WHAT>は「適切な問い(イシュー)」であり、<HOW>は「打ち手(解)」です。適切な問いを立て、<WHERE>で、どこに問題があるのかという分析をざっくりと行ない、<WHY>で、原因の究明をします。<HOW>を導き出すのは、最後の最後です。

ただ、右脳が長けている方、現場経験が豊富な方は、どうしても<HOW>をすぐに導き出して打ち手を売ってしまいがちです。

そういう私も、これに気づくのが遅くて、9年ほど前にグロービスというビジネススクールに通うまでは、本当に「HOW」から入っていました。18年間お世話になった出版社の社風や、私の師匠である作家の中谷彰宏さんの仕事の進め方が、「とにかく、やってみようよ、失敗したら止めればいいんだから」というものでしたので、私の仕事も、確度が不明でも、勘と経験で判断していけそうならGO!というスタンスでした。だから、論理思考は、ほとんどなかった。それを10年近くかけて、矯正してきました。


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弊社にも、いろんなホテル・旅館から、研修の依頼がきます。「CS度が低い。接客パーソンの接客技術が低いからだと思う。だから、高品質な接客技術を伝える研修をやってください」とか。でも、よく調べていくと、研修という能力開発(一人ひとりの能力を高める)が必要なのではなく、組織開発(一人ひとりの実力が発揮されない状態の組織を活性化する)や、もっと言うと人事制度や、職場環境に問題があったりします。実は、人間関係が悪くてコミュニケーションが円滑化されていない組織というのが、CS度が低い原因(WHERE)だったりということがある。

研修という打ち手は、HOWの手段のひとつ。ですので、宿屋大学では、研修を設計する前に、じっくり社内の問題を探ることから始めることを徹底しています。
「お腹が痛い」という患者に対し、「盲腸かもしれないから、お腹を切ってみましょう」という医者がいたら大変ですよね。処方箋を書くのは最後です。

「解・打ち手<HOW>」を導き出す前に、「問い<WHAT>」を考え抜く。「自分が考えるべきはなんだろか」「何を問わなければならないか」「いま議論すべきはなにか」という「適切な問いを立てる」をアクションを起こす前に行なう。これだけでも、あなたのビジネスの仕方は大きく変わります。

ぜひ、実践されてみてください。



【22.03.26】ホテルマネジメント雑学ノート(Vol.105)「ホテルを造るの、もう止めませんか」

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箱根・強羅に、とても繁盛している高級旅館があります。強羅花扇(ごうらはなおうぎ)です。2館あるのですが、感染禍にもかかわらず、どちらも高稼働・高単価を維持しています。この人気の理由の一つは、「質を犠牲にしてまで数を追わない」という経営方針にあります。宿泊業界では非常に珍しいのですが、強羅花扇は、稼働率によってスタッフ数を決めるのではなく、スタッフ数によって稼働を決めています。一般的なホテルや旅館は、お客さまの入り具合、稼働率によってスタッフのシフトを作ります。強羅花扇は、まったく逆の考えです。まず支配人が、出勤できる仲居さんの数を把握してシフトを作成する。すると、仲居さんの数が多い日もあれば少ない日もでてきてしまう。それが分かってから来館いただくお客さまの数を決める。よって、スタッフが少ない日は、どれだけ予約依頼が押し寄せようが、スタッフが無理なくハンドリングできる組数しか予約を受けないのです。経営者としては、「儲けられるときに、その儲けを放棄する」ということですから、とてもつらい判断です。でも、短期的な収益を放棄しても、長期で考えたらリピート顧客が増え、高評価の口コミが増えて新規客が増える。単価も一泊二食で一人4万〜 10万円ほど。高単価ゆえ利益額も増えて、給与も宿泊業界の平均よりもはるかに高い。スタッフの幸せが、オペレーションの質を担保し、それが顧客満足になって、収益につながる。この「サービスプロフィットチェーン理論」を実践して、繁盛旅館を創っています。



働くヒトは増えないのに、ホテルばかりが増える

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最近、ホテル業界の方々と雑談すると、けっこうな頻度で、人材問題の話題になります。

「ホテルで働くヒトは増えないのに、ホテルばかりが増える」

という話題。ホテルの専門学校に入学する学生も激減しています。親や高校の先生がコロナ禍を受けて「観光業界やホテル業界への進路を勧めない」理由が大きいです。以前は業界内での転職が多かったのですが、宿泊業界から出て行ってしまうヒトの数も増えている。業界に入ってくるヒトが減り、出ていくヒトが増えている。よって、就労人口は減る一方。なのにホテル開発は止まらない。私の古巣の『HOTERES』誌(2021年12月3日号)によると、445軒の開発案件が確認されたとのこと。

ホテルは、ハコを創っても、健全に運営しなければ価値を生みません。ずっと以前から、私は「開発される時点で、運営をどうしていくかを長期的に考えてほしい」と思っています。「どのくらいのレベルの人が何人くらい集められるか」を予測して、それに合わせてオペレーション設計をしていくという採用計画を、この少子高齢化の人材難時代に合わせて厳しめに行なう必要があると思うのです(人が集まらないのなら、流行りのDXでローコスト省人材オペレーションにしていくとか・・・)。

しかし、そうは言っても、所有と運営が分かれていると、開発・所有する会社は、運営は運営会社に任せれば何とかなると思ってしまうのも仕方ないですし、運営会社も、運営ホテルの軒数を増やさないと売り上げは増えていかないゆえ、人材問題を脇に置いてでも無理して運営を受託してしまう・・・、悩ましい問題です。でも、開発の段階で「とにかく造っちゃえ。人の確保は、あとから考えればいい。きっと何とかなる」という甘い読みは、もう通用しないでしょう。この「運営」という部分を、企画段階でもっと真剣に熟慮しないと、見てくれだけかっこよくて中身の薄い、中身の酷いホテルばかりが出来上がる。ひいては、日本のホテル全体のサービスレベルは落ちていくばかりです。


数を追う薄利多売ではなく、質を高めて厚利少売を

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ハコだけかっこいいというチープなホテルでは高く売れない。よって、安売りせざるを得ず薄利多売になり、利益率が下がっていく。悪循環です。いい加減、気付きましょう。大資本を持つ大手の宿泊特化型ホテルは別として、そのほかの多くの中小企業によるホテル・旅館は、数を追う薄利多売ではなく、質を高めて厚利少売を目指していくべきではないでしょうか。そうしないと社員の所得、満足度も上げられず、人材確保もできなくなります。

経済優先、売上至上主義の資本主義においては、荒唐無稽な夢物語になりそうですが、「宿泊施設の開発抑制」という議論も起こってもよいのではないでしょうか。「日本にはもう十分に素敵なホテル・旅館がある。これ以上数を増やすよりも、一軒一軒の質を高めていこう」という・・・。新規に創るのではなく、リノベーションやリブラディングングで単価アップしていく。サービスレベルを高めて単価アップしていく。そんな方向性です。

「SDGsの推進」と言っておきながら、環境に大きな負担がかかるホテルを次から次へと開発するという矛盾。いまのような宿泊業界の過当競争においては、開発を担うデベロッパーとゼネコンばかりが儲かって、運営企業は薄利多売で儲からないという構図・・・、こうしたことをクリティカルに考える必要があると思うのです。

そうです。冒頭の強羅花扇の素晴らしいビジネス事例を見習うべきです。<数>のために<質>を落としちゃダメなのです。ホテルの数を増やすことよりも、既存のホテル・旅館の質を高めていくことを業界全体で考えたいと思います。

もちろん、宿泊業の人材育成を担う宿屋大学は、人材確保(アトラクション&リテンション)の方向性で業界貢献していくつもりですが、一方で、働くヒトの問題やオペレーションの課題を無視して続けられる開発に警鐘を鳴らしたいと思います。

もう、ホテルを造るの、止めませんか?


【22.1.1】ホテルマネジメント雑学ノート(Vol.104)「ポストコロナのホテル業界、どう構想する!? 〜2022年の新年のご挨拶に代えて」



新年あけましておめでとうございます。

年末年始の数日間、宿屋大学は講座開催や研修・出張が少なく、新年一年間の準備と構想を練る時間になります。ダーウィンの進化論「環境変化に適応していく者だけが生き残れる」は、ビジネス界では真理でしょう。この年末年始の時間を使って、ポストコロナの社会や宿泊業界の変化を見据えつつ、「業界や宿屋大学はどうあるべきか」、常日頃つらつらと考えていることを整理したいと思います。





コロナ前の昭和時代からコロナ後の令和時代に



コロナによって、世の中は大きく変化する。
多くの識者がこう述べています。生活者である我々も実感していることは多いと思います。まずは、どう変わるのか、これを「日本の社会」「働き方」「宿泊産業」の3つで整理してみました。「コロナ前の昭和を引きずった時代」と「コロナ後の令和的新しい時代」への変化。赤字で書いたものはより注目すべきであると私が感じている変化です。


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対比させてみると、こんなにも多くの変化がありそうだと分かりました。
主要な変化を4つ挙げてみるとこうなります。

@標準化から多様化
Aホテルの競争激化
B急速なデジタル化(デジタルを使わないは、死を意味する時代)
Cホテル業界におけるニュータイプの登場

本ブログでは、この4つの解説を中心にお伝えしようと思います。

※その前に、誤解を招かないためにお伝えしますと、私は「昭和はダメだ」と主張しているわけではありません。私も昭和42年生まれであり、どっぷり昭和の時代に小中高生活を送った生粋の昭和人間です。昭和にも、普遍的に素晴らしいものはたくさんあると思っています。ただし、時代は変化しており、昭和を引きずって、そのままやっていると変化・進化し続けている時代から取り残されて、ビジネスが成り立たなくなるのではないかという危機感を持っているということです。





@標準化から多様化



昭和時代は、「みんなと一緒」が求められました。違うことをやったり、言ったりすると煙たがられました。私は中学では、学ランを着て、坊主刈りで過ごしました。国民の大半が大都市での生活や一流大企業への就職に憧れました。メディアといえばテレビが全盛で、みなが同じ番組を見て、翌日その番組の話題で盛り上がりました。

日本は、製造業が稼ぎ頭の時代でしたから、工場で「言われたことをその通りにこなす」仕事のやり方が求められました。国民がみな同じものを欲したので、同じものの量産というビジネスが最も効率的に儲ける方法でした。みんなが平日に働き、週末やお盆や正月に同時に休むので、リゾートホテルや旅館の利用は週末や連休に集中し、平日は宿泊客が非常に少ないという状況でした。

令和時代がどうなるかというと、価値観や生き方が多様化します。「みんなと同じ」は価値がなく、個性があるほど価値が生まれる時代です。社会やコミュニティに無理して同調していた人たちも、「自分らしさ」を求め、ダイバーシティが叫ばれるようになりました。

物質的な豊かさが満たされている時代は、同質なものがいくつもあれば、価格競争になり、モノの値段は安くなり、儲かりづらくなります。労働者も一緒です。人と同じことしかできない人の給料はどんどん下がっていきます。ですので、<同じ>よりも<違い>が価値になり、個性あるモノやヒトが選ばれるのです。

そんな多様化の時代です。ホテルも選ばれるために、やはり<違い>や<個性的な魅力>をつくっていく必要がありそうです。


Aホテルの競争激化



コロナ禍に入ってまる2年が過ぎましたが、いまだにホテルの開業ラッシュは続いています。コロナ前に着工したホテルは建設を途中で中断できず、ポストコロナの需要回復を見込んで開業しています。大手宿泊特化型ホテルチェーンも軒数を増やし、外資系ホテルブランドを冠したホテルの増加も加速傾向にあります。「HOTERES」誌(2021年12月3日号)によると、今年下半期半年間に開業したホテルは135軒、今後開業予定のホテルは445軒もあるそうです。それらの傾向を見ると、チェーン系の宴会場を持たない宿泊主体型ホテルが大半を占めています。つまり、「宿泊インフラとしてのホテル」が大半です。こうしたグレード、タイプのホテルは、スケールメリットを効かせることができるために、大手が有利となります。

では、大手ではなく、資本力も弱いホテルはどうすべきでしょうか・・・。これこそ、標準化から個性化の変化に対応すべき部分でしょう。単なる寝床として機能プラス「何かしらの価値」を付加するホテルの在り方です。

時代を鋭く分析し、価値ある示唆を社会やビジネス界に提言してくれている山口周氏は、モノの価値を<役に立つ>と<意味がある>という二軸のマトリックスで解説しています。そして、「<役に立つ>という在り方の市場で勝者になるのはごく少数であり、それ以外の多くは敗北する」と語っています。

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この論説は、山口氏の『ニュータイプの時代』という書で詳述されていますが、それを少し紹介します。自動車業界の例でいうと、「快適に移動する」という役に立つ乗り物であるカローラ(今でいうとヴィッツでしょうか)は、表の左上に位置します。一方、2シーターで荷物もほとんど積めず、ただただ爆音をとどろかせて猛スピードで走るフェラーリのような車種は右下、つまり「役に立たないけれど意味がある」という枠に位置します。そして、フェラーリは数千万円を払ってでも買いたいという人が後を絶ちません。つまり、欲している人にとっては「唯一無二の意味」があるのです。

このマトリックスは、ホテル業界に当てはめてもしっくりきます。左上には、大手宿泊特化型ホテルチェーンに位置します(カローラしかり、宿泊特化型ホテルしかり、日本人は、この機能性を重視した「役に立つ」製品を、コストを抑えて量産することに長けていると感じます)。 参考資料:【15.09.15】ホテルマネジメント雑学ノート(Vol.92)「日本発ビジネスホテルの競争優位性」

山口氏の論で言うと、この宿泊特化型ホテルの市場で勝つのはごく少数であり、それ以外の多くは敗北することになりそうです。では、フェラーリに当たる宿泊施設は、どんなものが当てはまるのでしょうか。私は京都の「俵屋旅館」のような存在が、ここに当たると考えています。俵屋は、日本文化の縮図です。建物や設え、節句の表現、料理やおもてなしなど、すべてにおいて、日本文化や日本の世界観を表現しています。宿泊客はそこに大きな意味を見出しているからこそ、一泊二食に10万円前後の金額を支払うのです。


私がホテル業界に提案したいのは、「意味がある市場で、ブルーオーシャンを見つけよう」ということです。「役に立つ市場(つまり標準化の市場)」では、大手数社しか生き残れないでしょう。「意味がある市場(つまり個性的な魅力で選ばれる市場)」で、独自の魅力を創造して、それに共感する人たちに顧客になってもらう競争戦略を考えるというのが、多様化の時代、ポストコロナの令和時代の在り方なのだと思っています。どんな人たち(ペルソナ)に、どんなコンセプト(価値)を提供するのかを明確にしていく戦略です。意味や個性的な魅力・価値を創っていく方向性には、ローカル文化、地産地消、働くヒトやコミュニティ、アクティビティ、世界観、哲学などが挙げられます。

これは、なにもホテル企業の経営のためだけではなく、日本社会の成熟化の意味でも大いに価値のある在り方です。画一的で、単なる寝床としてホテルばかりが街にあふれる社会よりも、個性的なホテルが街にたくさんあって、旅行者は自分の好みに合わせてホテルを選ぶことができる社会の方が豊かに決まっていますから。


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B急速なデジタル化(デジタルを使わないは、死を意味する時代)



10年かかるだろうと予測されていた日本のデジタル化が、コロナ禍になって、たった2年で進んだと言われています。時代は、オンラインです。我々の生活や仕事は、ネット上で展開されている時間がどんどん長くなっています。どこででも仕事ができるし生活できる。ファックスや郵送の請求書を扱っていると、それだけで「遅れた会社」と思われても仕方ありません。現金払いしか受け付けない店もしかりです。時代は、「Digital or Die(デジタル化しないと、死ぬだけだ)」なのです。

ホテルや旅館は、どこに行っても「人が足りない」と言われます。コロナで人を減らしてしまったので需要の急拡大に追いついていない。でも、問題解決の答えは「人を増やすこと」だけじゃないはずです。「増員」以外の解決策を考える努力が必要なのだと感じます。

下記の計算式をご覧ください。


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理想は、この状態です。生産人口減少日本において「スタッフ数」を増やすことが至難である状況を鑑みると、「能力」か「モチベーション」を高めることも必要です。ただ、そうはいっても、この二つも一朝一夕には上がらない。日々の人材開発と組織開発を意識的にやっていく必要があり時間がかかります。

だったら、左辺の「仕事量」を減らすことです。業務の効率化を考える。仕事を省く。人でなくてもできる業務をロボットやIT技術にやってもらうことで、人のパフォーマンスを高めることを考えるべき。製造業や外食業は、すでにどんどんこれを進めています。「いやいや、ホテルは、ここを省いちゃおしまいだ」なんて感じている人は、思考停止状態に陥っていると思います。人でなくてもできる業務をロボットやIT技術にやってもらうことで、人のパフォーマンスを高め、ホスピタリティを発揮できる時間と余裕をつくることでアウトプットの量と質は上げられるのですから。

もうひとつ、昭和からの脱却で大事なポイントは、「行動量より思考量」ということです。昭和のホテルでは、よく四大卒の新入社員が現場の効率化などを提案すると「そんなことを考えている暇があったら体を動かせ」なんて言われていましたが、令和の時代は逆であるべきでしょう。思考することでアウトプットの質と量を高めていくスタンスが必要なのです。


Cホテル業界におけるニュータイプの登場

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最後に、コロナに関係のない変化として「業界に現れたニュータイプのホテル業界人」を挙げたいと思います。私がこの一年で知り合ったホテル経営者、ホテルパーソンには、明らかに今までいなかったタイプの人材がいるのです。拙著新刊で紹介した5人はごく一部です。

私がこれまで出会ってお付き合いしてきたホテル業界人は、ほとんどが「おもてなしをしたくてホテルパーソンになった」方々です。しかし、今年出会ったニュータイプは、豊かさやライフスタイルの表現ができるといった「ホテル事業」の面白さに惹かれてホテルをプロデュースしたり、経営・運営したりしている人たちです。デジタルネイティブな彼らは、一様にクレバーで純粋で一生懸命でワーカホリックです。

そして、注目すべきは、みなさん仕事を楽しんでいるということです。ホテルを創る仕事や、接客を楽しんでいるということです。大晦日の朝に、NHKで大谷翔平のドキュメンタリー番組をやっていましたが、その中で、彼は「一生懸命、楽しむ」と語っています。野球を楽しみたいから頑張って上手くなろうとする。野球は仕事というより楽しみたいからやっている。結果、彼は億万長者です。令和時代はこういうことなのだと思います。昭和の時代は、努力と根性で頑張ることで成長・成果を上げてきましたが、辛いだけの職場からはもうなにも生まれないでしょう。経営者やマネジャーがホテルの仕事を楽しむ。人生を楽しむ。それを見てスタッフが仕事を楽しいものとして行なう。そんな楽しそうなスタッフが創る現場をお客さんも楽しく感じる。そんなお客さんが顧客になって企業に利益をもたらしてくれる。そんな循環です。

ホテルは輸血よりも止血を真剣に考えてほしい。採用よりも定着という課題に優先的に取り組んでいただきたいということも、私は切に願います。ニュータイプがやっているホテルは、スタッフも楽しく働いています。なんのためにやっているのか、自分たちが目指しているのはなんなのかというゴール・パーパスやベクトルが共有されている。そんな職場の離職率は極めて低いのです。

また、ニュータイプのホテル業界人を見ていて感じるのは、「守破離は古いのかもしれない」ということです。先人の教えやノウハウという型をまずはマスターしろというのが日本古来の教訓ですが、その苦労や時間をかけるよりも、〈好き〉を好きなだけ自由にやらせた方が成長するし、アウトプットは面白いものになるかもしれません。昭和と今が違うのは、テキスト情報や動画情報といったものに簡単にアクセスできるということです。師匠はインターネット上にゴロゴロ転がっている時代。最低限の基本はそこから入手でき、それを自分流にアレンジしていける器用さをデジタルネイティブである彼らは持ち合わせています。辛いことを無理して続けるよりも、楽しみながら創意工夫で続ける方がずっと成長は進むのでしょう。

私は、こうしたニュータイプのホテルビジネスパーソンが、宿泊業界の新しい潮流を創ってくれると期待しています。彼らを応援することで、ホテル業界の改善を促進させたいと思っています。


増殖し続けるホテル業界において、ホテルを育てるプロを増やしたい


ホテルは、建物とサービスオペレーションという二つで構成されます。そこには二種類のプロが必要です。

「創るプロ」と「育てるプロ」。

ここ数年間、観光促進とインバウンド客の増大を受けて日本各地に新しいホテルが誕生しています。コロナ禍のいまでも。まるで雨後の筍の様に・・・。ところが、そうしてできたホテルを「育てるプロ」は、残念ながら増えていません。どんなに素晴らしい建築とインテリアを装ったホテルも、そこに魂と哲学を注入し、サービススタッフをモチベートしてゲストをもてなし、そこでしかできない顧客体験価値を提供することができなければ、ホテルは単なるハコに終わります。時間と共に古び、価値は減少していきます。

オペレーショナル・アセットと呼ばれるホテル。そのホテルの価値をサービスオペレーションによって高め、収益を恒久的に上げるアセットに育てられるのは、プロのホテリエなのです。日本は、ホテルというハコの数や増え方に対してのホテリエ(プロフェッショナルホテルマネジャー)という“ヒト” の数が明らかに少ない。ホテルで生み出される価値を増やし、アセットの価値を高められるプロフェッショナルホテルマネジャーが今の何倍も必要です。

そんなプロを増やしたい。宿屋大学が抱く想いとミッションはそこにあります。第11回「プロフェッショナルホテルマネジャー養成講座(通称PHM講座)」は間もなく募集を開始します。

そして、もうひとつ、2022年は、「HOTEL OWNERS CLUB(HOC)」の取り組みにも注力します。「本気のホテル経営者のための、真剣な経営道場」として活動し、日本のホテル・旅館経営者の応援を強化できたらと思っています。

PHMとHOC、この二つを軸に、新しい時代における在り方、アウトプットの仕方を理解したホテリエを支援して、ポストコロナの令和の時代、日本中のホテル・旅館を楽しい職場にし、そこで働く人たちが自分の仕事の誇りをもって、人生や仕事を心から楽しめる……、そんな業界になる貢献をしていきたいと思っています。

本年も、宿屋大学をよろしくお願い致します。

2022年元旦
宿屋大学 代表 近藤寛和


【21.11.11】ホテルマネジメント雑学ノート(Vol.103)「人間は、ロボットになってはいけない」

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「スシロー」「ユニクロ」「ガソリンスタンド」「無印良品」「自動チェックイン機のあるホテル」「スーパーマーケット」「コンビニ」・・・、私だけではないでしょうが、最近、セルフオペレーションの店舗を頻繁に利用します。

特に、「スシロー」と「ユニクロ」と「ガソリンスタンド」で、実感したことがあります。それは、3店とも「これはサービス業じゃなく製造・流通業だ」ということです。以前は、「小売り・飲食」と「サービス業」の両方の要素を感じましたが、テクノロジーの活用で、限りなく人的サービスが省かれているということです。

「スシロー」では、スタッフとの接点は一度きり。お会計時の皿を数えてくれる時のみ。入店、順番待ちの札をもらう、寿司の注文、お会計などはすべてお客さんのセルフオペレーション。「ユニクロ」しかり。自分で選び、自分でセルフレジを使って会計する。試着する際と、質問する際しか、スタッフとコミュニケーションはない(ユニクロは、セルフレジ導入後、ホールにいる接客スタッフの親切度は増した気がしますが)。

セルフオペレーションのガソリンスタンドを先日利用したのですが、ガソリンを入れている最中にスタッフから声を掛けられました。「アプリをダウンロードしてくれたらガソリン割安になりますがいかがですか」とセールストーク。このトークが、私の目も見ずに、感情を載せず、単なるセリフを発しているだけでしたので、ちょっと気持ち悪くて、無下に断りました。


接客よりもリーズナブルな価格を望んでいる利用者に合わせたビジネス

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つまり、世の中、「いつでも、どこででも、だれにでも、一定の品質で売りさばく」というビジネスに突き進んでいる。

少子高齢化の時代ですし、ある意味これはしょうがないでしょう。それに、こうした店を選んでいるお客さんは、私を含め、「接客よりもリーズナブルな価格を望んでいる」わけであり、そうしたお客さんの都合・要望に合わせることによってビジネスを成功に導いているということだからです。

ビジネスにおいて、利益を残す方法は、言わずもがな2つしかないです。

@ WTP(Willing to pay:顧客が支払いたいと思う水準)を上げる (例)スターバックス マイケル・ポーターが言う「差別化戦略」

Aコストを下げても利益が残る仕組みを構築する (例)マクドナルド ポーターが言う「コスト・リーダーシップ戦略」

で、「スシロー」も「ユニクロ」も「セルフオペレーションのガソリンスタンド」も、上記のAの戦略をとり、それで成功しているのです。



サービスパーソンは不要の時代に・・・



ただ、私がこうした一連のセルフオペレーションの店を利用して感じたのは、「スタッフもこの省力化の流れにのっちゃっている」ということです。人間であるスタッフも、ロボット化しちゃっているということ。「スシロー」のスタッフも、ガソリンスタンドのスタッフも、決められたセリフを、決められたとおりに、感情を載せずに話す・・・。これは、ロボットそのものです。利用するお客さんのほうが「接客」ではなく「コスパ」を選んでいるので、「接客不要」と考えるお客さんに、無意識に合わせちゃっているのでしょう。

この流れで世の中が進んだら、限りなく人的サービスはなくなります。図の左側の部分をすべて技術が担い、人が担うことがなくなりますから。そして、サービスマンは不要になります。ユニクロも、回転寿司も、ファミレスも、コンビニも、すべてお客さんがセルフオペレーションで済む時代になる。ホテルも急速にセルフオペレーションに向かっています。

ここで立ち止まって考えないと、ホテルやレストランの接客スタッフ、やばいです。なぜなら、存在意義が限りなく減少していますから。接客よりもコスパを優先する利用者への無意識の迎合は、とても危険な行為だと私は感じます。

本来、デジタルを始めとしたテクノロジーを使うのは、効率化によって人材を削減するのではなく、ヒトが、ヒトでしかできないことに集中し、人材のアウトプットを引き上げることが目的のはずです。



形がない価値をポジティブに生かす

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製造・小売業は、形がある価値を売りますが、サービス業は、形がない価値を売ります。この本質的な違いを理解すべきです。サービスは形がないから、受け手のニーズに合わせて提供できるんです。これはロボットにはできない。同じものを提供するのはロボットに任せ、人は、人に合わせて価値を変えて提供することに専念し、そのスキルを磨いてほしい。こうしたホテルの接客スタッフの存在意義をしっかり考え、定義して、「人でしかできないこと」を磨いていかないと、本来ホスピタリティを発揮したいと思っているホテルスタッフが、どんどんロボットになっていきます。

私は、「スシロー」でたらふく握りを食べて1,000円払うこともあれば、カウンターに座って板前さんが握る寿司を、板前さんとのコミュニケーションを楽しみながら味わって10,000円払うこともあります。個人的な希望を言えば、宿泊特化でも、ラグジュアリーホテルでも、接客パーソンの在り方は、後者であってほしい(本当は、スシローで皿の数を数えてくれたアルバイトのスタッフからも、「うわあ、たくさん召し上がりましたねえ〜」といった突っ込みもらって会話をたかったし、ガソリンスタンドも、ちょっとした世間話から入ってほしい。そうすればアプリなんて喜んでDLします)。

つまり、いずれにしてもヒトのサービスの質は落としてほしくないのです。DX化の流れ、マンパワー不足などによって、ローコストオペレーション化が加速して、サービスレベルが劣化している日本のホテル業界を俯瞰するに、これを切に願います。そして、「ヒトでしかできないこと」を磨いていかないと職を失いますよと警鐘を鳴らしたいと思います。




【21.09.01】ホテルマネジメント雑学ノート(Vol.102)「ホテルの意義を再定義する」Part2

ホテルパーソンという素敵な人種



前述した通り、私の本業は宿屋大学という「宿泊業に特化したビジネススクール」の経営・運営である。二〇一〇年四月、前職の出版社で行なっていたセミナー事業を持ち出す形で独立した。なぜこの事業を始めようと考えたのか。少し説明したい。

私のキャリアは、『ホテル業界就職ガイド』という一冊の書籍を企画・編集・出版したところから始まっていると考えている。一九九六年のことだったと思う。当時、石ノ森章太郎の漫画が原作となったドラマ「HOTEL」がヒットしていた。主人公のベルボーイ・赤川一平や同僚のホテルパーソンたちの働き方や職場のかっこよさに憧れて、多くの若者が「ホテルマンになりたい」と志望した。ホテル業界が人気職業になったのだ。しかし、インターネットのない時代、ホテルの仕事の実態や、就職情報は一部の書籍を除いては見つけることができなかった。書店に行っても、「マスコミ業界に就職する本」や、「スチュワーデスになる本」はあっても、ホテルマンになる本は存在しなかった。

そんなとき、あるホテル専門学校のホテル学科長に呼ばれて、こう言われた。

「おたくで、ホテルに入るための就職ガイドを作ってくれないかなあ」と。

当時の私が就職活動を終えたばかりということもあったと思う。就活生が何に困るのか、どんな情報を欲しているのかなどに、ある程度明るかったため、すぐにコンテンツを考えて企画書を作った。社内で前例がなかったためか、「学生向けのビジネスが儲かるとは思えない」という理由で企画はなかなか通らなかった。しかし、全国の専門学校のなかに、雨後の筍のように生まれ始めた「ホテル学科」の先生を訪問し、「今度、こういう就職ガイドを創るので教科書採用していただけないでしょうか」と頭を下げると、あろうことか、まだ存在していない書籍にもかかわらず、多くの先生が注文してくれた。
そうした注文数が千部を超えたとき、企画は通った。その後、三日三晩寝ないで編集・校正作業をするなどの生みの苦しみを味わいつつも、晴れて『ホテル業界就職ガイド1997』は誕生した。

同ガイドは、出版されると驚くほど注文が入った。販売部の電話は、全国の書店からの注文で、ひっきりなしに鳴り続けた。専門書としては異例だと思うが、一万部を超えた。
 その後、私はホテル業界への就職支援ビジネスをいくつも企画・運営したが、何をやってもヒットした。「ホテル業界合同企業説明会」というジョブフェアや、第四章に登場する濱田佳菜も参加した「大学生のためのホテル業界就職講座」という合宿研修など、毎年定例で開催する就職イベントなどの新卒者就活支援ビジネスはオータパブリケイションズの柱の一つになっていった。

入社してから数年で、細くとも会社の事業の柱を創れたということは、私の大きな喜びであり、ビジネスの面白さを知り得た経験となった。それだけではない。私は私の人生を豊かにしてくれる宝物を得たのだ。ホテル業界を目指す若者たちとの交流である。彼らは、一様に明るく、人に喜んでもらうことを自分の喜びと感じる、心根の優しい若者ばかりだった。「ホテルマンになりたい!」と瞳を輝かせながらオータパブリケイションズのオフィスに来ては、履歴書や自己PRの添削を私やほかのスタッフに乞い、面接のトレーニング相手となることを求めてきた。一緒にホテルを目指す学生を、ライバルではなく仲間と見なし、誰かが内定を獲ればみんなで喜び、誰かが第一志望のホテルから落とされたら、みんなで悲しむ。そうやって就活の泣き笑いを共にした。私はそんな若者たちに向かってエールを送り、「一緒にこの業界を盛り上げよう!」と背中を押した。そんな交流が一〇年以上続き、毎年数十人、数百人という若者がホテル業界に就職した。相手を思い遣ることが自然にでき、一緒にいて楽しい若者たちとの公私を超えた交流を私は心から楽しんだ。

私が三〇歳を過ぎるころ、自分の天職をこう決めた。

「ホテル業界人の人生の応援団を担おう」

私が背中を押してホテル業界人になった若者たちの人生を応援する仕事を一生の仕事にしようと決めた。そして、新卒者向けの就職支援ビジネスは部下に任せ、私は現役ホテル業界人の支援事業を始めた。インターネットを使った求人サービスや人材紹介業、業界人のためのキャリアアップガイド、ホテル業界人専門のSNSなどの事業を興していった。
 私の仕事は人を幸せにしているし、自分も楽しい。その上でビジネスも好調で会社に利益をもたらしている。人生最高、そんな思いでいた。

ところが、そんな良いことばかりは続かなかった。こんなことが続いたのである。

目をキラキラさせながら就職活動をし、希望のホテルに就職したホテルパーソンが、数年経って再度オータパブリケイションズにやってくる。そして、こう告げるのだった。
「ホテルの仕事、疲れました。ほかの業界に転職することにしました」と。そう言って、携帯電話の販売会社や生命保険会社の営業職などに転職していった。また、三〇歳前後の男性ホテルマンも多く来るようになり、彼らはみな同じセリフを言った。「ホテルの仕事は好きなのですが、給料が安くて結婚できないので、給料のもっと良い会社に転職します」、もしくは「子供ができて、奥さんが仕事を辞めたため、自分ひとりの給与で家族を養わなければならないのですが、ホテルの給料じゃ足りないので辞めます」といったセリフである。
 自分が就職の支援をした若者が、あまり幸せになっていない……、そんな現実を目の当たりにしたのだった。



古き良き時代の終焉



一方で、ホテル企業のビジネスの在り方に対して、違和感を覚えることも多々あった。
 例えば、某電鉄系ホテルの総支配人をインタビューしたときのことである。その総支配人は自分の仕事のミッションについてこう語ってくれた。

「私の仕事は、ホテルで儲けることではないんです。電鉄会社である親会社からは、『赤字では困るけれど、利益を出すことはホテルビジネスの目的ではない。沿線住民のためのフラッグシップホテルになり、グループ全体のブランドイメージを上げることがあなたの役割です』と言われています」

今となってみればこのロジックはよく理解できるが、当時は、「利益を出さなくてもよいビジネスが存在するのか?」とびっくりしたことを憶えている。

また、あるシティホテルではこんなエピソードを聞いた。
あるとき、一〇〇〇万円の宴席を受注した。この大きな売上額を前にホテル中で喜んだ。そして、調理部は最高の食材を使って極上の料理を作り、高級ワインを何十本も空け、大勢のスタッフが給仕にあたり、精いっぱいの宴席を提供した。宴席が終わり、原価や経費を計算すると、なんと総計一一〇〇万円かかってしまっていたという。つまり、一〇〇万円の赤字だ。赤字を出しているのにみんなで喜んだというオチである。

事程左様に、かつてのホテルは損得勘定に無関心であった。親会社のお飾り的な役割を担っていたし、ホテルの存在意義が事業性よりも社会性にあったことを考えると納得する。特段軽蔑に値する考え方ではない。
 
事業・ビジネスには「ロマンとソロバン」の両方が必要だ。その仕事を通して成し遂げたいこと(=ロマン)と、その仕事によってどう収益を上げるかを考えること(=ソロバン)の二つである。当時のホテルは、少し大げさに表現すれば、「ロマンだけを追いかけていればよかった」のである。ホテルにとって、そしてホテルパーソンたちにとって「古き良き時代」だったのだ。

ところが、バブル経済が崩壊し、日本経済が失速すると、徐々にホテル子会社を所有する親会社もスタンスを変えていった。ホテル子会社に冷たくなっていった。「ホテルもビジネスです。しっかり稼いでください」という姿勢になったり、本業回帰という流れに乗ってホテル資産を売却するところも出てきた。売却される先が不動産投資ファンドというケースが増え、ますます「利益重視」が加速した。

これまで、「ホテルのみなさんは、利益のことは考えなくてよいです。目の前のお客さまを喜ばせることだけを考えてください」と指示を受け、おもてなしのスキルを磨いてきたホテルパーソンたちは、大いに戸惑った。サービス職人、ホテルサービスマンとしての自分を向上させてきたのに、ある日突然「ホテルビジネスマンを目指してください」と言われるようになったからだ。つまり、「ロマンだけではなく、これからはソロバンも弾いてください」と言われるようになったのだった。

そして、ビジネスという名のソロバンを勉強したホテルパーソンと、ビジネスや数字に苦手意識をもって学ぼうとしなかったホテルパーソンに分かれた。後者のホテルパーソンは、現在ではこの業界から姿を消してしまったように思う。


一流のホテルサービスパーソンになっても……



「ホテルで使うソロバンの弾き方をみんなで勉強しよう」

宿屋大学というビジネススクールを始めた目的はこれである。ソロバンだけではなく、顧客満足を提供しつつ、社員も幸せになれるホテルビジネスを遂行できるプロフェッショナルホテルマネジャーを、日本中に増やしたいと思って創ったのである。宿屋大学は、創業当初は不慣れなスクール運営であったが、徐々にビジネススクールの体を成すようになり、いまでは、受講者の成長を愚直に伴走する体勢がとれている。結果、多くの卒業生が優れたホテル総支配人になって全国で活躍している。

ビジネススクールの経営・運営という本業の一方で、私は大学の観光学部やホテル専門学校で講師をしいている。初回講義では必ず次のことを伝えている。

「一流のホテルサービスパーソンになっても、食っていけない」

上場しているような老舗高級ホテルのサービス職人、マスコミで取り上げられるようなソムリエやコンシェルジュといったスター級の職人ならともかく、並のサービス職人レベルでは給与がなかなか上がらず、生活に困るということを、事例をもとに伝えている。こんな感じである。

「これは、都内にある某高級外資系ホテルのレストランで働くホテルマン三人の話です。三人とも三〇歳の男性で勤続年数も一緒。Aさんはマネジャー、Bさんはアシスタントマネジャー、そしてCさんはチームリーダーです。月給(額面)はいくらか。Aさんは三七万円、Bさんは二八万円、そしてCさんは二二万円です。つまり、マネジメント職になればある一定以上の額をもらえますが、接客だけやっている人の給与はほとんど上がらないのです。その差なんと一五万円です。三〇歳というのは多くの男性が結婚して所帯を持つ年齢ですが、奥さんと子供を養うのに必要な月の生活費は平均で二八万円です。要するに、接客だけやっていては食っていけないんです。だから、みんなには三〇歳までになんとかアシスタントマネジャー以上を目指してほしい。そのためには接客スキルだけではなく、マネジメントやビジネスを勉強する必要があるのです」

私は、講師業を始めて一二年になるが、一二年間これを言い続けている。この想いに変わりはない。ましてやテクノロジーが発達し、接客の仕事がロボットや機械にとって代わっている時代である。接客だけをやっているサービスマンの仕事は少なくなり、結果給料も減っていくだろう。だから、マネジメント職になって接客する人を使う立場に就かないと、この業界では生きてはいけない。こんなメッセージを何度となく発している。
ところがこのメッセージ、実は残酷な意味を含んでいる。なぜなら、ホテル志望の学生のほとんどは、接客がやりたくてホテル業界を志望しているからだ。ビジネスや金勘定にはあまり興味がなく、人から「ありがとう」と言ってもらうことに生きがいを感じる人たちである。私が一二年間言い続けているメッセージは、「三〇歳前後で給料面に課題を抱えて泣く泣く業界を去って行くホテルパーソンを無くしたい」という思いで、敢えて、その人たちの気持ち、接客を極めたいという意思を無視したメッセージを伝えているのだ。
本来ならば、「ホテル業界人の人生の応援団」というスタンスで活動している私の立場ならば、「おもてなし、接客をやりつつ、世間並かそれ以上の給与を得られる業界になるにはどうしたらよいのだろうか」という問題解決に取り組むべきなのだ。薄給という問題を当事者だけに押し付けず、業界全体で考え、構造改革をしていく必要がある。ホテルというサービス業においてゲストに直接価値を届けるサービスパーソンは不可欠であり重要な存在だ。第三章で登場する吉成太一に言われて私自身もハッとさせられたのだが、我々はこれまで、彼らの薄給問題を「この業界、そんなもんだから」と諦め、思考を停止し続けてきてしまったのではないだろうか。そんな自責の念を感じずにはいられないのだ。


ホテルの未来に向けて



新型コロナウイルス感染拡大によって、世の中の常識が変わった。ホテルの在り様も多種・多彩になった。いや、むしろ「一つひとつのホテルが個性をもって多種・多彩になっていかないと生き残れない時代になっていく」といった方が正しいだろう。

ホテルで働くホテルパーソンたちの働き方やキャリアデザインも、もっと多様になっていいはずだ。おもてなしをし続けたい人はおもてなしを存分にすることができ、マネジメントを担いたい人はマネジメントに集中でき、ホテルを創る仕事がしたいという人は開発の仕事に携わることができる。そんな時代。また、なにもフルタイムワークにこだわる必要もないだろう。元・旅館の仲居だった主婦が、接客のプロとして時々呼ばれてVIPの接遇にあたるということや、SNSに強いホテルパーソンが、サイドビジネスとしてホテルや旅館のインスタグラム公式ページの運営を受託するといったことも自由にできる時代になるだろう。

この後、第二章からは、魅力に溢れたホテリエたちが登場する。彼ら彼女らの人生の軌跡や考え方、ホテル経営哲学を綴ったノンフィクションドキュメンタリーであるが、実に価値があると自負している。「ホテルは空間に価値を加えて時間貸ししているオペレーショナル・アセットである」と私は分かったようなことを語っているが、この五人のニュータイプホテリエは、端からそう捉えている。「ホテルは寝る場所」とは、誰一人捉えていない。例えば、第二章の主人公である龍崎翔子は、「ホテルは空間に時間軸を合わせた四次元のメディア」と捉えてさまざまな価値創造を続けているし、第三章の吉成太一は「ホテルは新しい文化が生まれる場所」と定義している。第四章と五章で登場する三人のホテリエは、「訪れた人が自分の居場所と感じられるサードプレイス」というキーワードを発している。

では、これからお付き合い願いたい。トップバッターは「ホテルはライフスタイルの試着室」と語る龍崎翔子、この業界に現れた気鋭のアントレプレナーの人生からスタートする。

・・・・・・・・・

ぜひ、続きを、本書にてお読みください。
「ホテルを再定義」して生み出された価値やホテルの新しい形の具体例が満載です。


●新刊『惚れるホテルを創る 愛されるホテリエたち』のマクアケプロジェクト


【21.09.01】ホテルマネジメント雑学ノート(Vol.101)「ホテルの意義を再定義する」Part1

ホテルの本質とは



「ホテルはその存在意義を変えるべき時期にあり、存在を再定義する必要がある」

私はプロローグでこう述べた。新型コロナウイルス感染拡大によって〈宿泊〉という需要が大幅に縮んでしまったため、宿泊以外の価値創造を模索すべきであり、そのために新しい在り方を考え、新しい価値創造をしていかなければならないのではないかという意見だ。

「ホテルは宿泊の場所」。これが従来の定義であり本質だ。本質とは、あらゆる要素をそぎ落として最後に残ったもの、欠くことができない最も大事な根本要素のことである。その〈宿泊〉という本質の需要が、今回の感染禍によって激減したのである。
では、どうあるべきか、どんな新しい価値創造ができるか、それをどう考えていけばいいのか……、第一章では、これを整理してみたい。

一般的に、ホテルは「サービス業」だと認識されている。「おもてなしビジネスの最高峰」というイメージを持つ日本人も多いだろう。ホテルはサービス業。これは間違いない事実だ。しかし、実はサービス業だけでは、ホテルビジネスの正しい説明とはいえない。五〇点である。ましてや、ある業界の人たちから見たら、ホテルはまったく違う性格を持ったビジネスになる。




ホテルという不動産業の契約時間単位とは



左記の〇〇〇の枠には、どんな文字が入るか、お分かりだろうか。

ホテル = 〇〇〇業 + サービス業

ホテルは、〇〇〇業にサービス業を付加したビジネスである。
答えは、「不動産」である。ホテルというビジネスは、土地と建物という不動産の上で、サービス・オペレーションを展開するビジネスなのだ。これを、ビジネス用語で「オペレーショナル・アセット」と呼ぶ。オペレーション(運営)しなければ価値が生まれない資産(不動産)なのだ。

では、不動産ビジネスとはどんなビジネスか。ひとことで言うと、土地や建物を利用して価値を生み出すビジネスである。建物という空間、もしくは単なる土地という空間を時間で区切って利用者に提供している。その時間の長さによってさまざまなビジネスが展開される。

例えば、分譲マンションは、一度売ってしまえば永久に購入者のものになる不動産業態である。賃貸マンションであれば、時間単位は〈月〉であり、利用者は家賃を支払って部屋という空間を借りているのだ。ウィークリーマンションであれば、賃貸住宅(マンション)を一週間単位で借りることができる住居であり、オフィスビルは月単位で賃料を支払う。レジャーホテル(通称:ラブホテル)は、二〜四時間ほどの〈時間〉単位で空間を提供している。コインパーキングは〈一〇分〉単位で駐車スペースを貸しているビジネスだ。つまり、契約期間の単位で事業内容が変わるのだ。

では、ホテルという不動産業の契約期間は、どんな時間単位だろうか。

これは、すぐにお分かりだと思う。〈一日〉である。ホテルは一日単位で客室という空間を貸し出している不動産ビジネスである。そこにサービス・オペレーションという価値を加えて一つのビジネスにしているのだ。




ストックビジネスとフロービジネス



話は多少脱線するが、さまざまな不動産ビジネスの業態があるなかで、ホテルは最も難しいビジネスではないかと、私は感じている。賃貸マンションであれば、一度賃借人が入ってしまえば、あとは管理・清掃といった作業だけで毎月固定家賃が入ってくる。一方のホテルはといえば、マーケティングやセールス活動を駆使して毎日客室を埋めなければならない。しかも、ご利用いただくゲストに対して、サービス・オペレーションを提供しなければならない。つまり、三六五日毎日埋めるための努力とコスト、オペレーションという努力とランニングコストが発生するのだ。

さらに補足すると、マンションやオフィスビルならば少なくて済む共用スペース(ロビーや廊下などのパブリックスペース)や事務所(バックオフィス)などを確保しなければならない。理論上は収益を生まないスペースを比較的多めに持つ必要があるのだ。二〇一〇年代になってインバウンド需要が増えたあとは、「そうとも限らない」と言われるようになったが、不動産業界では「ホテルは景気変動やオペレーターの力量に影響し、ボラティリティ(価格の予想変動率)が大きくて最も難しい不動産業態、坪効率が最も悪い不動産業」というのが定説だったようである(不動産ビジネスには、契約単位が短ければ短いほど単位面積当りの売上が高くなるというセオリーがあり、ホテルは〈一日〉という短い契約単位によって、ほかの不動産業態よりも高収益を実現できたり、需要に合わせて販売価格を柔軟に高めたりすることができるメリットもあることを補足しておく)。

ここ数年のビジネストレンドに「サブスクモデル」がある。多くの経営者、ビジネスマンが自社のビジネスモデルをサブスクモデルにできないか思案している。「サブスクモデル」とは、サービスを提供し、そのサービスを一括で売上金として受け取るのではなく、月額制や年額制で受け取る仕組みである。毎月固定で収入を得られるため、経営者にとっては資金繰りに頭を悩ませる必要が減る、ありがたいビジネスモデルである。これをストックビジネスと呼ぶ。ストックビジネスの対義語が、フロービジネス。フロービジネスとは、顧客との関係は継続的ではなく、その都度顧客との関係を築き、その時々に収益を上げていくビジネスである。契約や販売を繰り返さなければならず、売り上げのめどが立たない時期には収入が入ってこないというリスクと不安が経営者に付きまとう。
お分かりだと思うが、賃貸マンションという不動産業はストックビジネスであり、客室を一日単位で販売するホテルは、フロービジネスである。私が、「ホテルビジネスは難しい」と感じる大きな理由のひとつがこれである。




オペレーショナル・アセットという本質



話が横道に逸れてしまったが、ホテルの本来の本質である「宿泊する場所」を、一度脇に置いて、ホテルの本質を「一日単位で空間を貸し出す不動産業」と考えてみる。
 不動産業とは、「空間」×「時間」で価値を創るビジネスある。そして、オペレーションによって価値を加えたのがオペレーショナル・アセットというビジネスである。こう考えると、計算式は次のようになる。

ホテルという不動産業 =「空間」×「時間」×「オペレーションによって創造する価値」

どうであろうか。ホテルという不動産業を因数分解し、三つの要素に分けて考えてみるのだ。それらの掛け合わせによって、無数の価値創造の方策が生まれやしないだろうか。
「空間」でいえば、ホテルには、客室以外にもレストラン、バー、ロビーラウンジ、庭、プールサイド、宴会場など多様な空間がある。

「時間」なら、分単位、時間単位、一日単位、週単位、月単位、年単位での区分ができる。あるいは分譲すれば永久に買った人の持ち物になる。「オペレーションによって創造する価値」も、「誰に・何を・どのように」という問いによって無限に思考を巡らすことができるだろう。

これまでのように「宿泊施設」という在り方だけでホテルを考えると、ゲストは午後三時にチェックインし、翌日の一一時にチェックアウトするまでの二〇時間の滞在体験は一様である。例えば、フロントでチェックインした後に客室に入り、寛いだ後、夕食をとり、バーでお酒を楽しんで就寝。翌日は朝食をとってからチェックアウト。ほぼこのような滞在ではないだろうか。そして、顧客提供価値は、「翌日の活力」である。ゲストは次の日に生き生きと元気に活動するために宿泊するのである。

一方、「オペレーショナル・アセット」という在り方ではどうか。同じく、午後三時にチェックインし、翌日の一一時にチェックアウトするとして、その二〇時間の体験価値をどうデザインするかが問われることになる。ホテルの新しい定義を「オペレーショナル・アセット」とすることで、顧客提供価値は〈体験〉となり、思考は多様に展開できるようになる。

最近では、ホテルの予約から、チェックイン、滞在、チェックアウト、後日SNSに投稿・レビューするというところまでの体験を時系列で紙の上に書き出して、各ポイントをどう設計すれば顧客体験が最良のものになるかを考える「カスタマー・ジャーニー・マップ」という手法もよく見かけるようになったし、宿屋大学では、マーケティングの講義や研修で頻繁に扱っている。

もっとも、三時チェックイン・一一時チェックアウトという考え方自体が、一日単位というフレームに縛られた考え方だ。時間単位、週単位、月単位などで考えることによって、オペレーショナル・アセットによる体験価値を創造する幅が広がる。
オペレーションすべきは、快適な宿泊のお手伝いではなく〈体験〉だ。よって、これからのホテル業界人が磨くべき能力やスキルは、体験価値を創造する力であり、デザイン力になる。よりクリエイティブな発想力が求められるようになるだろう。



ホテルマネジメント雑学ノート(Vol.101)「ホテルの意義を再定義する」Part2 に続く


●新刊『惚れるホテルを創る 愛されるホテリエたち』のマクアケプロジェクト


             



【21.09.01】ホテルマネジメント雑学ノート(Vol.100)『惚れるホテルを創る 愛されるホテリエたち』



私(宿屋大学 代表 近藤寛和)は、10月1日に、古巣のオータパブリケイションズから、書き下ろしノンフィクションドキュメンタリー『惚れるホテルを創る 愛されるホテリエたち』を上梓いたします。

書籍編集者として、そして著者として私はこれまでたくさんの書籍の出版に携わってきましたが、久しぶりに手掛けた今回の新刊には、特別な思いがあります。私にとって格別な一冊です。それはもう、「この一冊を書くために生まれてきた」といってもいいくらい。集大成というとちょっと大げさですが、私のこれまでの人生、キャリアの帰結のような存在です。

●零細ながら商売人の家に生まれたこと。
●学生時代、バックパッカーを長らくやっていたこと。
●オータパブリケイションズに出合えたこと。
●そこで、愛すべきホテル志望の学生との交流があり、自分自身彼らに大きく変えられたこと。
●中谷彰宏さんに出会って、ベストセラー『ホテル王になろう』を創れたこと。
●ホテレスの記者として様々なホテル・旅館や経営者を取材できたこと。
●コーネル大学ホテル経営学部を密着取材したこと。
●原忠之先生や、マリオットで30年以上マネジメントをやった飯島幸親氏に出会い、グローバルホテルビジネスを知れたこと。
●宿屋大学を12年前に起業したこと。
●グロービスに通ったこと。
●YMCAや立教大学で、素敵な学生と出会えたこと。

そして、

●「コロナ禍」。

こうした、私の人生で起こったすべての要素が絡み合い、影響しあって、「本書を書かねば!」と思わせたのかもしれません。

そして、5人の愛すべきホテリエとの出会い。
彼らの人生やホテルに込める熱い想いをノンフィクションドキュメンタリーとして綴りましたが、実は、今回は、かなり私が多くを語っています。これまでの経験、知見、情熱、ホテル業界人の皆様への愛情などを総動員して書き上げたのが本書です。ホテルや旅館といった宿泊事業に携わる方への大きな感謝の気持ちを込めて・・・。

よく「寝食忘れて没頭する」といいますが、寝食しながら書きました。つまり、夢の中でも構想を練り原稿を書いていたほど、夢中になって創作しました。


本書の構成は、

プロローグ これからのホテルを思索する旅立ちに際して
第一章 ホテルの意義を再定義する
第二章 ホテルはライフスタイルの試着室(龍崎翔子)
第三章 常識の対岸に、人生は広がっている(吉成太一)
第四章 ロマンのためにソロバンを弾く人でありたい(濱田佳菜)
第五章 街ととけあい、人をつなげる(リンナス 松下秋裕氏&ホテルみるぞー)
エピローグ ポストコロナの「ホテル」と「ホテリエの働き方」
あとがきに代えて

となっています。


出版は10月ではございますが、ブログ「ホテルマネジメント雑学ノート」の100号を記念して、「プロローグ」と「第一章 ホテルの意義を再定義する」を連載で、公開したいと思います。


●新刊『惚れるホテルを創る 愛されるホテリエたち』のマクアケプロジェクト




プロローグ 〜なぜ本書を書こうと思ったか



二〇二〇年一月某日朝六時、NHKから流れてきた一本のニュースで私の眠気は一気に覚めた。
「中国湖北省武漢市で発生した新型コロナウイルスの感染拡大を避けるため、中国政府は春節期間の海外への団体旅行を禁止した」
 ほんの数分の報道だった。しかし、このニュースを聞いた瞬間、それまで対岸の火事にしか思えていなかった新型コロナウイルスが、私には一気に自分にも近い出来事に思えた。「これは日本の観光業界に大きな影響を及ぼすに違いないし、自分の生活にも大きく関係してくるだろう」と……。

二月三日、横浜港に寄港したクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」号において七〇〇人を超える感染者が発生、同二八日は感染拡大が顕著だった北海道において「緊急事態宣言」が発出された。三月に入ると欧米各国でも感染が急拡大、世界保健機関(WHO)は「パンデミック」に相当すると認定。このころからマスクがドラッグストアから姿を消し、「東京五輪・パラリンピック」も延期が決定、高校野球をはじめとした恒例行事も次々と中止となっていった。「三密回避」が叫ばれ、「緊急事態宣言」の発出と続いた。「新しい生活様式」、「ソーシャルディスタンス、「ステイホーム」……、そんな新語が飛び交うようになると、我々はこの未知の敵との闘いが長期戦になるであろうことを予感しだしたのだった。



八方塞がりとなった宿泊業



宿泊業界における最も衝撃的だったのは、「WBFホテル&リゾーツ(株)が大阪地裁へ民事再生法の適用を申請」というニュースであった。最大二七のホテルを全国に展開していたホテルチェーンが破綻したのだ。四月の日本全体のホテル稼働率は、前年比八三・五%の減少、ADR(平均客室単価)は前年比四七・五%減、全体の宿泊者数は七七%の減少となった(STR二〇二〇作成、PwCコンサルティング「COVID19:ホテル業界への影響」より)。
 
四月某日、知り合いが支配人を務める都内の宿泊特化型ホテルを数軒訪問した。銀座の某ホテルにその日の稼働率を聞くと、「稼働率どころじゃないですよ、二部屋しか埋まっていません」と苦笑された。上野のホテルに至っては、「今朝チェックアウトされたお客さまが出発されて、いまは一組も宿泊客はいない状況です」と嘆いた。

二〇一九年までの数年間は、インバウンド需要の急伸によって日本の宿泊産業は、わが世の春を謳歌するかの如く絶好調であったが、このインバウンド需要が皆無になった途端、宿泊産業は一気に元気を失った。不要不急の外出や県境を跨ぐ移動の自粛によって出張は激減しオンラインコミュニケーションに代わっていった。おまけに、三密回避によって宴会・集会という需要も壊滅状態になった。

宿泊産業は、観光ホスピタリティ産業と呼ばれている。「ステイホーム」という呼びかけは、「観光するな」ということであり、「人と会うな」というのは、ホスピタリティの発揮のしようがないということであり、「集うな」というのは、宴会やイベントができないということである。つまり新型コロナウイルスは、「宿泊する場所の提供」や「会食や集う場所の提供」というホテルの機能を使ってはならない世の中に変えてしまったのだ。
ホテル経営者、ホテル業界人の憂いは日に日に増していった。経営者たちは、客室稼働率が数%に落ち込み、売り上げが立たない状況下で社員やスタッフの雇用をどう守るかに頭を悩ませた。雇用調整助成金を得るために休業となり、時間をもてあそぶようになったホテルパーソンたちの多くは、いつ仕事を失うか、戦々恐々とした日々を送っていたのだった。


ビフォーコロナには戻らない



この感染禍は、リーマンショックや東日本巨大地震を超える悪影響を宿泊業界に与えている。日本のホテル史上最大のピンチだ。GOTOトラベルが始まった二〇二〇年七月から約半年間は、ホテル・旅館の利用が激増したものの、結局はカンフル剤でしかなく、停止後の需要は再度低下した。年が明けて二〇二一年になると、大手ホテル企業のなかにも早期退職者を募るといったリストラ策に走るところも目立ってきた。収束が先か、資金ショートが先か、ホテル・旅館企業は、体力勝負になっている。私の知り合いのホテル経営者のなかには、宿泊業を諦めてレジャーホテルに切り替える例も出てきた。

取り巻く環境も社会の在り様も、人々の価値観も大きく変わった。そして、ビフォーコロナには戻らない。では、ポストコロナの世の中はどう変わるのか。これからのホテルはどう在るべきか。従事するホテリエや働き方はどう変化していくのか。ステイホーム期間中、私はひたすらこの問いを考えた。朝から晩まで仕事部屋に籠り、資料や本を読み、識者が語る動画をチェックし、近未来の社会の在り様を夢想した。

ひとつ確信したことがある。それは、「ホテルはその存在意義を変えるべき時期にある」ということ。「存在を再定義する必要がある」ということだ。〈宿泊〉という需要が大幅にシュリンク(縮む)してしまったのだから、「ホテルは宿泊の場所」という定義をいったん脇において、新しい存在意義、違う提供価値を考えていくべきではないか。宿泊需要一本足打法はもはや通用しない。たとえインバウンドが戻っても、単なる宿泊インフラとしての機能だけでは選ばれず、価格競争を強いられ、ビジネスは厳しくなるばかりだろう。

富士フィルムがフィルムメーカーからヘルスケア用品事業で再生に成功し、テレビやオーディオといった家電メーカーだったソニーが、音楽や映画、ゲームといったコンテンツビジネスで大半を稼ぐ企業に代わり、自動車メーカーから脱却しようとしているトヨタが、「Woven City(ウーブン・シティ)」というスマートシティを建設しはじめた。求人広告から始まったリクルートが、広告をコンテンツ化して企業と消費者をつなぐマッチング・ビジネスを横展開して住宅や車、旅行や結婚情報の分野でもデファクトスタンダード(事実上の標準、トッププレイヤー)の地位を握り、短期間で大幅なダイエットを実現させるパーソナル・トレーニングジムでメジャーになったライザップが、「結果にコミット」というコアコンピタンスを横展開して英会話やゴルフトレーニングに参入した。

このように事業ドメインを変えたり、自分たちの創造価値を再定義したり、強みを深掘りして横展開することで成功した事例は多い。これらと同じようなイノベーションを宿泊事業においても起こせないだろうか。二〇二〇年の四〜八月まで、いつ収束するかも分からず先の見えない不安の中で、私自身も陰鬱な気持ちになりつつも、〈宿泊〉に代わるホテルの価値創造のカタチを探っていた。



立ち上がったニュータイプのホテリエたち

 

苦境に立たされ、狼狽えるばかりのホテル経営者・業界人がいる一方で、「下を向いてばかりいてもしょうがない」と言わんばかりに、打ち手を考え、発信し、行動に移しているホテル経営者やホテリエもいた。その代表例は、星野リゾートの星野佳路代表だろう。マイクロ・ツーリズムという新語を作り、テレビやネット番組に出演しては、近隣住民にホテルや旅館を利用していただくためのプロパガンダを熱心に行なった。結果、「マイクロ・ツーリズム(近隣観光)」は、流行語のように語られ、ステイホームの自粛に耐えられなくなった人たちが動き出していった。
 
星野代表だけではない。若手経営者、若手ホテリエのなかからも、柔軟な発想力と行動力でホテルの新たな活路を見出してチャレンジし出している人たちが目立ってきたのである。彼らは、私がこれまで出会って来なかった、いわばニュータイプのホテリエである。ホテル業界人の多くは人好きであり、最上級の接客がしたくてホテルに就職した人ばかりであるが(それはそれで素晴らしいことである)、「ホテルというビジネス」に魅力を感じて事業を行なっている新しいタイプの若手が出てきたのだ。彼ら彼女らは、この業界の既成概念や枠組みにとらわれない発想をし、デジタルネイティブである優位性を駆使して新しいホテルの価値創造をし出したのだ。

私は、そうしたニュータイプのホテリエに強く惹かれた。感染禍で大打撃を浴びて苦しんでおり、若者の就職人気もなくなりつつあるこの業界において、新しい未来のカタチを創り、牽引してくれる存在になっていくに違いないと確信した。そしてこう思った。

「彼らの生き方やホテルビジネスのやり方を取材させていただき、執筆するというプロセスで、これからのホテルの在り方、ホテリエの働き方はどうあるべきかを考えてみたい」

私の本業は、宿泊業のビジネススクールの経営・運営である。本を一冊書くという行為は、膨大な時間を要する仕事であり、(少なくとも私は)書籍を一冊世に送るという仕事には時間と労力を惜しまず一二〇%の力を発揮したい。よって、本の執筆を始めるという決断は本業に支障をきたすかもしれない。それでもこの取材・執筆・出版という仕事のやり甲斐は計り知れないと感じた。本業のボリュームを削ってでもやりたいと心から思った。そして、古巣のオータパブリケイションズの林田研二編集長に連絡し、出版の協力を仰いだのだった。


これからのホテルを思索する旅立ち



これが、本書の誕生の経緯である。このあと登場する五人のホテリエは、必ずしも日本を代表する「ホテリエトップ5」というわけではない。「ポストコロナのホテルの在り方、ホテリエの働き方はどうあるべきか」を考えるための最適な取材対象である。
五人は、人間として、そしてホテリエとして惚れ込んだ若者なのだが、私が魅力を感じる人物には共通点がある。それは、何を〈考えたか〉でもなければ、何を〈言ったか〉でもない。何を〈やったか〉ということである。世の中、社会に対してアウトプット(価値創造)を着実にしているかどうかである。この五人は自らの行動で新しい価値の創出を続けているホテリエたちだ。

だから私は惹かれている。そして、自分の人生を本気で最良のものにしようとしている彼らの生き方、ホテリエとしての哲学を多くの人に伝えたいのだ。
 
本書はそんな思いで生み出された一冊である。

日本社会に敷かれてきた従来のレールの先が、濃い霧に包まれて見通せなくなっている。あるレールの先には貧民街しかないかもしれないし、あるレールは途中で途切れているかもしれない。またあるレールの先にあるのは崖と深い谷底かもしれない。そうした時代においては、既存のレールに乗るよりは、自分が進みたい未来に向けて自分でレールを敷いていく生き方を選択すべきではないか。彼らの生き方は、それが正しいことを示唆している。

本書を通して、五人の人生を辿りながら、これからのホテルを思索するジャーニーを私と一緒に楽しんでいただきたい。そして、経営者の方にとっては、自ホテルが目指す方向が明るく照らされ、現役ホテリエの方にとっては、自分も新たな挑戦をしてみたいと思えるきっかけになれば幸いだ。      

(「第一章 ホテルの意義を再定義する」に続く)


●新刊『惚れるホテルを創る 愛されるホテリエたち』のマクアケプロジェクト




【21.08.11】新刊書籍〈仮題〉『惚れるホテルを創る 愛されるホテリエたち』に関するアンケート

今秋、新刊書籍〈仮題〉『惚れるホテルを創る 愛されるホテリエたち』(近藤寛和 著)をオータパブリケイションズから出版予定です。

いま注目の5人のホテリエを密着取材して、ポストコロナのホテルの在り方、ホテリエの働き方を思索したノンフィクションドキュメンタリーです。コロナ禍によって「宿泊」需要が激減し、宴会やレストラン利用も非常に少なくなりました。コロナが収束しても、世の中や人々の価値観、ライフスタイルは大きく変わり、元に戻ることはないでしょう。よって、ホテルは新しい価値創造を考え、新しい在り方を模索することが求められているのです。本書は、5人の若手ホテリエの取材を通して、「これからのホテル」を考えた一冊になっています。

現役ホテル業界人やホテル志望学生には、キャリアデザインを考えるヒントになり、ホテル・旅館の経営者、マネジメントに携わる人には、これからの宿泊施設の在り方、価値創造をどう考えていくかのヒントになります。

つきましては、下記のアンケートにお答えいただけないでしょうか?
回答いただけましたら、抽選で5名様に、新刊が出来上がった後に一冊プレゼントいたします。

よろしくお願い申し上げます。



             ※※※※ アンケートフォームはこちらから ※※※※            







        カバーイメージです。あくまでイメージです


カバーイメージです。あくまでイメージです

      

        



        裏表紙の帯のコピーです



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